きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

3月に購入したBL漫画(全12冊)

2週間ぶりにブログ更新!

ちょびっとブログ留守になってて失礼しました。
緊急事態対応の影響で、自分の担当する編集者としての業務の他に、担当外の進捗の見通しが危ない校正と校閲もやるようになって、4月入ってからホントに寝る時間がないです。

文芸編集部に入って10年ですが、最初の2年は校正、そのあと1年は校正+校閲を専任でやっていた経験がこんな事態になって活かされるとは...。

石の上にも3年...じゃないけど、編集部に入ってもなかなか編集者として作家を担当する仕事には就けずやさぐれ魂になってた時期もありますが、今から思えばちゃんと育ててもらってたんだなぁと実感。
(校正も校閲も入っていないような本を読んだりするとその気持ちはより大きくなる...w)

この不安な情勢の中でも執筆活動をされている作家の方々を支えるためにも、経験を活かして仕事を疎かにはできないと思って自分を叱咤しています。

皆さんも仕事に限らず、緊急対応の影響を色々と受けて気鬱な日々を過ごしてらっしゃると思いますが、事態が終息するまでなんとか乗り切っていきたいですね...。


というわけで、3月購入のBL本は既読6冊:積読6冊なんですが、今は読んだ本の感想を書く余裕がない(けれどブログ放置はちょっとせつない)ので、とりあえずまずは購入記録として上げたいと思います。
後々、この記事に感想を付け足して追加更新しようと思います。


では、どうぞー!

3月に購入したBL漫画(全12冊)

(順不同/敬称略/あらすじは電子書籍サイトの作品内容から)
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覆面係長リターンズ / 斑目 ヒロ

[あらすじ]
若手社員・町田の恋人は上司の立花係長。金髪の超美形でベタ甘に愛してくれる最高の恋人だけど、常に覆面をかぶる変態だった!!常識を超えた彼の所業に振り回されっぱなしの町田は耐えきれなくなりついに別れを考えてしまい……!? 美形度も愛情度も想定外の型破りラブロマンス!!(電子書籍サイトの作品内容より)

先生のせんせい / noji

[あらすじ]
初めてクラスを担うことになった小学校の教師、大路。入学式で顔を合わせたスクールカウンセラーの保美(やすみ)は過去に自分を救ってくれた。α(アルファ)としてどう立ち回っていけば良いのか悩んでいた思春期を保美の存在が支えてくれた。信頼感はいつしか心をときめかせる恋になっていた。しかしそれもこれも全ては遠い昔の話……と言い聞かせたはずが、保美は相変わらず煌めいて見える。子供達と過ごす賑やかな日常と、育まれていくあたたかな愛情。世界は見たいように見えるはず、希望と優しさに溢れるオメガバース。(電子書籍サイトの作品内容より)

恋病スキャンダル / さきしたせんむ

[あらすじ]
イケメン俳優として売り出し中の龍二の悩みは、ファンが過激なタイプばかりなこと。ストーカーに襲われているところを偶然助けた蔭場は、いろいろあって龍二のマネージャーに就任する。 …ところが蔭場も実は超過激な龍二のファンだった…! なのになぜだか龍二にとって特別な存在になっていき…!? デキるマネージャーにさわやかイケメン俳優陥落☆ 大人気シリーズが遂にコミックス化!!(電子書籍サイトの作品内容より)

リバース / 麻生ミツ晃

[あらすじ]
小説家の円と警察官の吐木は、同じ施設で育った“同志”で“番”。円はフェロモン分泌が異常で番以外の人間もそのフェロモンを感知してしまう上、番関係を結んだことで遺伝子変化が起こり、一般の抑制剤も効かなくなっている──そう、振る舞っている。何も知らない吐木は円を支える為と出世を蹴り続け、所轄への異動初日に担当することになったのは、Ωを狙ったレイプ事件。そんな中、円は発情期に入り強烈なフェロモンを発しながら吐木を求める──まるでΩのように……(電子書籍サイトの作品内容より)

ダーリンは泣き虫外国人  / 寺嶋かなえ

[あらすじ]
子供の頃、大好きだった幼馴染の少女・ナオとの再会を心待ちにしていたアメリカ人のエリは、オトナになったナオに想いを馳せつつ13年ぶりに来日! ワクワクしながらナオの家を訪ねると出てきたのはいかつい顔したパンツ一丁ヒゲ面もじゃもじゃ男!?
初恋の幻想は儚く散り、ナオは男だったけど、相変わらず優しいナオは健在で大好きが止まらないエリ。宿なしだったのでお泊まりさせてもらうことになるが、真夜中、漏れ聞こえる声に目が覚めナオの部屋に行くとナオが!男と!セックス!!をしていた!!!!!!?
ビックリだしエッチだしちんちん痛いしで大混乱のエリが言い出した提案とは――?(電子書籍サイトの作品内容より)

繋いだ恋の叶え方 / 吉尾アキラ

[あらすじ]
運命の赤い糸が視え、そして切る力をもつ「縁切り屋」の薫は、その能力のせいで自身の赤い糸は存在しない。
誰とも結ばれることはないと本気の恋を避け、依頼人だった原に告白されても拒むしかなかった。
けれど、何度断っても一途に好意を寄せてくれる原に惹かれ、彼との愛を信じたいと思い、付き合う決意を固める。けれど、どうしても原の赤い糸の存在が気になってしまい……。(電子書籍サイトの作品内容より)

俺様勇者とひきこもり魔王の恋愛攻略術 / 鳥丸太郎

[あらすじ]
此処は魔物と人間が共存する世界。人間の恐怖と憎悪から生まれた、畏怖される存在の魔王。――のはずが、世界を滅ぼすこともせず自身の城に引きこもり、穏やかな日々を過ごす麗しい魔王(Lv75)がいた。「このままではいつか倒される」と眷属に苦言を呈された魔王は、気乗りしないまま己の安穏のためにと街に攻め入ったところでカンスト目前の勇者(Lv99)に遭遇、レベルの差に打ちのめされてしまう。コトはそれだけでは済まず、勇者に見初められてしまい貞操の危機を感じた魔王はなんとか逃げ帰り城の守りを固めるもいとも簡単に勇者が城に侵入、魔王は返り討ちにしようと立ち上がるが…?(電子書籍サイトの作品内容より)

ヨメは箱入り息子 / 上田にく

[あらすじ]
神社の次男で生き神様としてあがめられ、軟禁状態で育てられたヘビに変身できる体質の青年・晴は、その生活に息苦しさを覚え、ついに家出を決行! 世間慣れしていない晴は、草むらで弱っていたところ、爬虫類マニアの大学生・村崎に拾われ助けられる。「普通」に憧れる世間知らずの天然箱入り息子・晴は、それをきっかけに、ムッツリで何を考えているか分からない村崎と、初めての「友達」になることになったが、そこから始まった二人の同居生活は、勘違いとすれ違いの連続で……!? 凸凹なふたりが初めての「好き」を育て合う、Hでかわいい恋愛成就ラブコメ電子書籍サイトの作品内容より)

秘め恋 / 三ツ矢凡人

[あらすじ]
「このままどっかに、二人で逃げねぇ?」
高校生の彼方と九朗が住む三日月村では、昔飢餓から村を救ったという狐一族の末裔と狐の嫁の末裔が、毎年夏祭りで婚姻の儀式を行い、まぐわうことで、災いから村を守るとされていた。そしてお互いその一族の末裔である彼方と九朗は、この夏役割を引き継ぐことになっている。けれど村の風習を信じている彼方と違い、九朗はまったくやる気がない様子。九朗になら……と思っていた彼方はその様子に傷つくが――。男同士の婚姻――村の因習に苦しむ、幼馴染みの恋の行方は!?(電子書籍サイトの作品内容より)

アンチロマンス (1) 特装版 / 日高 ショーコ

[あらすじ]
幼なじみで、同級生で。高校卒業後ルームシェアを始めてから気がつけば6年――。広告代理店でライターをしている柿谷と美容師の周防の関係は、「友達以上」ではあるけれど、その先に進むには、お互いためらいがあり、ぎくしゃくしていて……!? (電子書籍サイトの作品内容より)

ラブオール・アパートメント / ミキライカ

[あらすじ]
「この部屋には、決して誰も招き入れない」
前カレと別れ、新しい生活を夢見る会社員・伊角(いすみ)。ところが彼が安い家賃にひかれて引っ越した先は、朝からお盛んな声がひびきわたる、壁の薄いアパートだった。伊角の苦情に隣の遊び人風の大学生・円座(えんざ)は「俺、うまいらしいんです」と逆に誘いをかけてきて……!? チャラ男大学生×ツンデレリーマンのお隣さんバトル・ラブ。(電子書籍サイトの作品内容より)

まもって番犬くん / にたこ

[あらすじ]
僕の番犬になってくれない?
泣き虫でいじめられっ子だった勝は、初恋の女の子に振られたのをきっかけに強くなろうと決意。その結果“狂犬のマサ”と恐れられ、不良達を返り討ちにする日々を送っていた。そんなところへ、おぼっちゃま学校から転校してきた森実くん。彼は、どことなく初恋のあの子に似ている。その上、勝のことを知っているらしく──!?
不良×おぼっちゃま転校生の初恋物語電子書籍サイトの作品内容より)


では、また!
浅葱 拝

蒼空の絆 / かわい有美子(イラスト:稲荷家房之介)

[あらすじ]北の大国N連邦との対立が続く東宝グランツ帝国、その北部戦線を守る空軍北部第三飛行連隊――通称『雪の部隊』に所属するエーリヒ・ヴィクトル・フォン・シェーンブルクは、『雪の女王』として名が轟くエースパイロットであり、国家的英雄のひとりでもある。歴史ある旧王国名門貴族の末裔で圧倒的な美貌を誇るエーリヒは、厳しくはあるが部隊内の信頼も篤い、理想的な指揮官だった。そんなエーリヒの司令補佐官を務めるのは、幼少の頃よりエーリヒを慕う寡黙で忠実な男・アルフレート中尉。厳しい戦況の中、戦闘の合間のささやかで穏やかな日常を支えに、部隊の皆と共に生き残るために必死だったエーリヒだったが、ある日、激しい戦闘の中、利き腕の肘から先を失う怪我を負う。そんなエーリヒに対し、アルフレートはそれまで以上に献身的な忠誠を見せるが――?
電子書籍サイトの作品内容より)

[感想]

高潔な人×忠誠の人×ブロマンス

敗戦濃厚な戦時下の軍人(パイロット)を主人公に、骨組みのしっかりした小説を硬質な文体で書き上げていて、世界観が素晴らしく好み。
その上、登場するキャラクターの属性や関係性も魅力的で、ひとことで言うとめちゃくちゃ萌えた...!

特に元貴族で国への忠誠を胸に軍人として高潔な魂を抱いているエーリヒと、そんなエーリヒに忠誠を尽くすアルフレートの関係性がたまらない。
一度だけ言葉を交わした幼少期は、領地の保養地に赴いた貴族の若君と村の子供、士官になり同じ空軍部隊に配属されてからはエース・パイロットと補佐官、エーリヒが隻腕になり作戦技術部参謀となってからは参謀と参謀副官...と、エーリヒへの忠義で道を歩んできたアルフレートの忠誠心が二人の関係性の礎となっているのがひたすら萌える。
命を救うやり取りだった幼少の出来事が、たった一度の接触だったというところも尊い

序盤、エーリヒとアルフレートが2人で湖畔にピクニックに行くエピソードでは、エーリヒが”上官としての感情”以上のものをアルフレートに抱いていることがはっきりと見て取れてにんまりするけれど、それ以外の部分で上官とその補佐という関係でありながら、エーリヒが唯一、気を緩めることができるのがアルフレートと2人のとき、というのが時折伺えるのも萌ポイントが高い。

忠誠は我が母国と皇帝陛下、そしてあなたに

エーリヒが隻腕になり、空軍の北部部隊基地から首都に移ってからは、当て馬的存在が登場して、よりBLらしい展開になるけれど、その展開にエーリヒの国への危惧と忠誠心を絡めているのがとても上手い。

国を守りたいという矜持のために情報部の従兄弟に自らの身体を差し出そうとしたエーリヒに対し、どこまでもエーリヒの高潔さを優先してきたアルフレートが怒りをあらわにするところからの展開は、まさにBLの本領発揮という感じ。
2度目に身体を重ねる前に、「恋人のように」と願って2人でダンスを踊ったり歌を一節歌うところは、本当に甘やかで素敵だった。
個人的には危険な任務を前にしたエーリヒから、別離の意味を込めて「ヴァイオリンを託したい」と言われたアルフレートが「・・・信じられないことを、平気でおっしゃる」と返すところが最高に萌えました。
最後の最後までアルフレートは敬語を崩さないんだよね...それが猛烈に萌えだったわ。


サン・ルー共和国へ親書を運ぶために戦闘機に乗ってからの展開の運びは駆け足気味だけれど、取って付けたような軍人設定ではなく、エーリヒもアルフレートも国への忠誠を抱く軍人としての矜持で最後まで行動するのがとにかく格好いいし、BLはブロマンスから甘々まで堪能でき、納得の出来栄えの小説です。
hontoの限定おまけ「白い軌跡」(本編後、一緒に暮らしている2人の様子と空軍士官学校でのあるひととき)も、余韻を残した美しい物語になっていて、大満足。


かわい有美子さんは量産型の執筆スタイルではないので、新作が待ち遠しいですね。


では、また!
浅葱 拝


Life is Beautiful / 伊勢原ささら(イラスト:斑目ヒロ)

[あらすじ]
いいことなど一つもない人生に絶望した瑞生は、崖から飛び降りようとしたところを、優しい図書館司書の綾部に止められた。綾部は行き場のない瑞生を図書館へ誘い、さらには住む部屋と温かな食事まで提供してくれる。だが、生まれてこのかた幸福とは縁がなく不信感の塊の瑞生は、その好意を素直に受け取れずにいた。けれど、いつしか瑞生の心は優しく自分を包んでくれる綾部へと傾いていく。そんなある日、過去に綾部に助けられたという男から「あの人は、不幸な人間が大好きなんだよ」と聞かされて……。(電子書籍サイトの作品内容より)

[感想]

人生に絶望した自殺志願の青年と、手を差し伸べる図書館員の静かな再生の物語。

嫌いなものは?と問われて”他人の悪意”と即答するほど人生に絶望し続けてきた瑞生が、再び人を信じ、心に光を灯す過程が丁寧に描かれていて、好きなタイプのキャラクターではないのに惹きつけられる。

自殺志願者を救おうとする際限のない優しさが胡散臭い綾部も、そうせざるを得ない過去を背負っていて、綾部自身の抱える歪みと瑞生が抱える絶望が共依存のような絆を作っていくのだとしたら、不幸な結末に向かう可能性もあり得たと思うけれど、そこを「Life is Beautiful」というテーマに結びつけ、お互いを想う気持ちを持ったことで、綾部も瑞生も人生に対し肯定的に向き合うようになる様を描いているのがとても巧みだった。

ただ綾部については...

綾部の救いの手を勘違いした他の自殺志願者の青年が居たように、綾部の行為は自己満足の延長線上にあったもので、自殺を覚悟するくらい人生に絶望している者にとっては誤解を招く優しさだったことは否定できないと思う。
両想いになった瑞生は綾部のよって人生に希望を取り戻したけれど、綾部によって心を傷つけられた者もいるんだということは綾部自身、胸に刻んで欲しい。


図書館の読み聞かせボランティアの部分は、なんだか共感羞恥心がむずむずして恥ずかしくなってしまったw


では、また!
浅葱 拝



きみはまだ恋を知らない / 月村奎(イラスト:志水ゆき)

[あらすじ]
売れない絵本作家の高遠司は、絵本だけでは生活できず、家事代行サービスのバイトをしながら暮らしていた。ある日、司は青年実業家・藤谷拓磨の指名を受け、彼のマンションに通うことになった。極度のきれい好きと聞いていたので緊張していた司だが、なぜか藤谷は司が戸惑うほどやさしく親切だった。そして、司が性嫌悪、接触嫌悪であることを知ると、自分を練習台にして触れることに慣れようと言ってきて!?(電子書籍サイトの作品内容より)


[感想]

砂糖菓子のように甘くて優しい...

司の抱える天涯孤独の寂しさと、生前の母親の影響で性的嫌悪に縛られている精神的苦痛が物語のメインとなっているけれど、重苦しい雰囲気は薄く、攻めの藤谷の溺愛っぷりと相まって、どちらかというと全体を優しさで色づけしている印象です。

絵本作家として才能はあるかもしれないけれど仕事としては順調とはいえない焦燥や、家事代行サービスで出会った藤谷との生活格差など、現実に向き合う司の様子をひとつひとつ丁寧に描いているので、ともすれば司の思考に焦ったさを感じるかもしれないけれど、自分の考えを何度も振り返って進もうとする芯の強さが感じられるのがいい。

足長おじさん的な存在なのかと思った藤谷が実は司の義兄弟で、弟を大切に想う気持ちからあれこれプレゼントをして喜ばせたいと思ってたり、何かと世話を焼きたがる様子が激甘でムズムズするw 
母親が死んでから天涯孤独だと思って生きてきたのに、幸せを願ってくれる兄がいきなり出来て、しかもあんな風にとんでもなく甘やかして接してきたら、家族に愛される喜びが相手を愛する気持ちに変わるのも...然もありなん。
そこの気持ちの移り変わりを、丁寧に細やかに描いている。

だからこそ、

司の人生の”重荷”となっているもう一つの問題の性嫌悪、接触嫌悪を克服する過程が、「好きになった相手は特別だから性的接触も大丈夫」というBLの暗黙の了解的な大雑把さでまとめてしまっているのがとても残念。それまでが司の心の動きに綿密に寄り添っていただけに、消化不良すぎる。

また、半分血の繋がった兄に恋をしてしまったと思ったら、実は兄が父の実子ではなく司と血は繋がっていないという後出しで、都合よく禁忌を回避するのも雑というか...色々と要素を盛り込みすぎて、物語の後半はざっくりとまとめて流してしまっているのが本当にもったいない。


とはいえ、寂しい受けが攻めに甘く優しく見守られ、だんだん溺愛されていくのは素敵です。


では、また!
浅葱 拝

繋いだ恋の叶え方 / 吉尾アキラ

[あらすじ]
運命の赤い糸が視え、そして切る力をもつ「縁切り屋」の薫は、その能力のせいで自身の赤い糸は存在しない。 誰とも結ばれることはないと本気の恋を避け、依頼人だった原に告白されても拒むしかなかった。 けれど、何度断っても一途に好意を寄せてくれる原に惹かれ、彼との愛を信じたいと思い、付き合う決意を固める。けれど、どうしても原の赤い糸の存在が気になってしまい……。(電子書籍サイトの作品内容より)


[感想]

あとどれくらいこうしていられるのか

「叶わぬ恋の結び方」の続編。

恋人となり、むず痒くなるぐらい甘〜い原との同棲生活も1年続き、もしかしたらこのままずっと一緒にいられるのかな...と思い始めた矢先に、原の小指に「運命の赤い糸」が繋がるを見てしまう薫...。それまでの甘々いちゃいちゃっぷりが幸せと可愛さあふれるものだっただけに、薫の動揺が手に取るようにわかってつらい。

もし誰かと糸が繋がったら切って欲しいと望んでいる原の気持ちをわかっていながら、繋がったことを伝えず、糸を切るつもりがない薫の”頑なな臆病さ”は一見すると1巻から変わっていないように見える。でも実は、原との甘い生活で原への想いがより深くなって、原の幸せを願ってるからこその気持ちだとわかるので、読んでて薫の自己完結しているような気持ちを責める気にはなれない。

少しでも長く一緒にいられたらと願う薫の気持ちも、運命の相手との糸を切らなくても自分のことを好きなままでいて欲しいと告白するシーンも、せつなさの極みだった...。

運命の相手と結ばれることだけが幸せじゃない

好きになった相手にいつも「運命の赤い糸」で繋がった相手が現れるのを見てきた薫に、真っ直ぐな想いをぶつけて恋人になった原の一途な想いは、今回もブレがない。
「二人で一緒に幸せになろう」という気持ちを伝えるために、赤い糸が巻きつく部分を持っていない薫に赤いピンキーリングを用意するなんて...泣ける。ルックスも心もまさにイケメン。

天然でポヤポヤしてる面も、薫と一緒にいるとデレまくりなのも、エッチではちょいS気味になるところも、愛情を出し惜しみしないところも原さんの魅力だけど、最大の魅力はやっぱり薫と一緒に幸せになることを望む一途な想いがブレないところだなぁ。


”この手は絶対に離さない”という強い愛情で結ばれ、赤いピンキーリングで繋がった二人に幸多くあれ。


では、また!
浅葱 拝


2月に購入したBL小説(全8冊)

この記事をまとめていて、2月発売で購入予定だったのに取りこぼした作品が複数あることに気がついたw
ということで2月は少なめの8冊です。

(順不同/敬称略/あらすじは電子書籍サイトの作品内容から)
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竜騎士は最愛を捧げる / 佐竹 笙(イラスト:)

[あらすじ]
竜を惹きつける匂いを持つために「竜殺し」と呼ばれる一族に生まれたリクは、病に倒れた母親を助けるために「竜狩り」に加担する。だが竜の傷つく姿を目の当たりにし罪悪感にかられたリクは、竜の国に助けを呼びに行くことを決め、そこで騎士団隊長のアルヴィンに出会う。母を看取れなかった後悔や孤独感から涙が溢れるリクに「自分を否定して、傷ついて泣くな」とアルヴィンは優しく受け止めてくれるが、アルヴィンに自身の出自を告白できないまま故郷に戻ることになり…?


[感想]:
クールでイケメンでスパダリ属性の攻め様なのに、リクに”ブルードラゴン(の自分)”をベタ褒めされて赤面・照れまくり・挙動不審になるのがツボ。リクの体質のせいで密着してたらナニがナニな状態になって、それを部下に察せられるとか...かなりいいキャラしてたw
誘拐された竜を救って解決なのかと思っていたら、後半には「ユニノの民」に関するシリアスな展開が待っていて、”魚類の体外受精”的な方法で種の絶滅危機を防ごうとしてきたことなど、オリジナリティを感じられる設定で面白かった。ただ枢機卿が良い人っぽく受け入れられてたけれど、ユニノの民に対するこれまでの政策を見ていると決して聡慧で良い人物とは思えず、どういう人物として描きたかったのかな...いまいち人物像を描ききれていなかったと感じた。
文章力に拙さを感じる部分もあるけれど、なかなか面白かったです。


いつかあなたに逢えたなら / 片岡(イラスト:yoco)

[あらすじ]
疎遠だった父が死に、桐ヶ谷律は父が子供を売買する犯罪者だったことを知る。父の屋敷には、かつて「商品」だった美しい青年・蒼生が遺された。戸籍もない蒼生を追い出す訳にいかず、二人はともに暮らすことになるが、律は娼婦だった蒼生を嫌悪し冷たくあたった。しかし何故か蒼生は「お役に立ちたい」と懸命に尽くしてくる。一方通行の関係は、律が友人に裏切られ、怒りをぶつけるため蒼生を抱いた夜から変わりはじめるが……。



[感想]:
金持ちの小児性愛者のための”商品”として生きてきた蒼生が、唯一の”優しい想い出”として大切にしてきた想いの先の律に盲目的になる心情は理解できる。商品として生きてきた以外に何もできないことや、自分の存在自体がひどく特殊なことも自覚し申し訳なく思っていて、律にどんなに辛く当られてもただただ受け入れる静けさはとても好き。
ただ律については、父親について拒絶感を持って負の感情にまみれるのは理解できるけれど、それを蒼生にぶつける態度にはとても不快感を覚えた。仲間との会話もそうだけど、短慮で癇癪持ちで独善的で、上手くいっていっている時は良いけれど、上手くいかなくなったら機嫌が急降下して周りに当たり散らすタイプ。蒼生を嫌悪するように無視し、散々な態度を取っていたのに、セックスしてからの突然の変わりようときたら...。受けの蒼生の心情に比べると、攻めの律の心の動きは大雑把にしか描かれていないのが惜しまれる。
初めて出逢った庭が美しいファクターになっていて、静寂をはらんだ文章と全体的な雰囲気には魅力を感じた。
こちらが商業デビュー作ということですが、この作品はいかにもBL的な特殊な身の上の主人公を描いているということもあり、独特の雰囲気とオリジナリティを上手く練り合わせていたと思いますが、今後どういう題材で自分の作風を作り上げていくのか、本作以降の作品創りが気になる新人作家さんだと思います。


パブリックスクール —ロンドンの蜜月— / 樋口美沙緒(イラスト:yoco)

[あらすじ]
二年間の遠距離恋愛が終わり、ついに恋人の待つイギリスへーー。名門貴族の御曹司で巨大海運会社CEOのエドと暮らし始めた礼(れい)。まずは自分の仕事を探そうと、美術系の面接を受けるものの、結果は全て不採用!! 日本での経験が全く役に立たない厳しい現実に向き合うことに…!? エドの名前には頼りたくない、けれど恋人の家名と影響力は大きすぎるーー甘い蜜月と挫折が交錯する同居編!!




[感想]:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


狼王の思し召し / 栗城偲(イラスト:榎本あいう)

[あらすじ]
幼い頃、獣人の少年の持つ指輪と、宝物の計算機を交換して結婚の約束をした乃亜。それから数年後。身寄りをなくし、田舎から街へ職探しに出た乃亜は人攫いにあってしまう。助けてくれたのは、あの日の少年・魁だった。獣人国の王となっていた魁は「あの日の約束は今でも有効だ」と乃亜を花嫁として迎え入れ、優しく愛を囁いてきて……!?種族も身分差も乗り越える二人の切なくも甘いラブストーリー。




[感想]:
乃亜がそろばんを用いた計算や会計知識で、乃亜を遠巻きにしていた城の獣人達に認められることや、帳簿の確認から新たな事件に繋がっていく成り行きは自然なんだけど、全体的に問題を深く掘り下げることなく解決して次に展開していくので、小説としてはだいぶ物足りない。戦争、横領、人身売買、前王の後宮の愛人といった問題が扱われているけれど作品全体の雰囲気に深刻さはなく、問題が起こってもトントン拍子に解決するので、さらさらと読み進む。乃亜と魁が絆を深めて仲睦まじくしていくのを見守りつつ、弟の理央の可愛いもふもふショタ感を楽しんでさくっと読了。


獣人アルファと恋の迷宮 / 成瀬かの(イラスト:央川みはら)

[あらすじ]
養い親を亡くし孤児シシィは迷宮都市へとやってくる。二十人もいる幼い弟たちを養うため、死に神のように禍々しい姿をしたオメガ嫌いの獣人・ラージャと組んで迷宮へと潜り始めたシシィはベータだと思っていたのに突然発情期に襲われ驚愕。激怒したラージャに嘘つきと責められた挙げ句激しく抱かれ妊娠してしまう。一人で子供を産む決意をするも、気づいたラージャが求婚してきて──。プロポーズは子供ができたから? それとも……?



[感想]:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


ロマンス不全の僕たちは / 月村 奎(イラスト:苑生)

[あらすじ]
もう長い間、恋をしている。美容師の昴大には秘かに想う相手がいた。芸能事務所にスカウトされるほどかっこよくて、才能があって、だけどどうしようもなく愛想がなくて言葉がきつい同僚、遠藤進太郎だ。周囲からは明るくムードメーカーと思われている昴大だが、本当は傷つきやすく、臆病な一面を持っていた。だから、遠藤にも告白するつもりはなく、今の、一番親しい同僚という立ち位置で十分なはずだった。それなのに、遠藤の地元へ引っ越して、遠藤の美容院で働くことになってしまい!? 無口無愛想×隠れ繊細のハートフルラブ登場!



[感想]:
片想いを隠しながら想い人・遠藤の友人としての立ち位置でそばにいる昴大の気持ちが繊細に描かれていてギュンとくる。明るく振る舞っているのに軽薄で嫌な印象にならない文章力があるので、振る舞いの裏に隠された臆病な心の動きに真実味が灯っている。
ずっと平行線を辿っているように見える二人だけど、デレ要素一切なしの塩対応な態度に見えた遠藤が実は「デレまくり」っていう...わかりづらいわw そのわかりづらさすら魅力になるんだから得してるな遠藤。
遠藤の言葉のなさに物足りないと感じないわけではなかったけれど、本編後の「雪の日の帰り道」で、遠藤視点の昴大とデレまくりの遠藤の心の声を聞けて満足。
片想いのせつなさを描いているけれど、いつもの月村奎さんのテイストとは少し違って、感傷的になり過ぎていないのがすごく新鮮だった。


見初められたはいいけれど / 水原とほる(イラスト:ミドリノエバ

[あらすじ]
留学準備で来日した、取引先の大企業の御曹司――その女癖が悪いと噂の放蕩息子の世話を、上司に命じられてしまった!! 内心の不満を押し隠し、部屋を訪れる澄人(すみと)。ところが、その男ジョッシュに、「面倒を押し付けられて、イラついてるね?」と、笑顔であっさりと見抜かれてしまう。評判と違って、洞察力に優れたかなりのクセ者だと驚く澄人だが、なぜかその後、連日呼び出されるようになり!? 



[感想]:
種類の異なる孤独を抱えている澄人とジョッシュだけど、ジョッシュが澄人の孤独を知る前に澄人に魅かれたのに対して、澄人はジョッシュの内なる孤独感に気づいたことでジョッシュのことが気になるようになる辺りの”孤独感”の扱い方がとても良かった。
澄人にとって人生は平坦さを求めるものだったけれど、最後の数行で”第三の人生”が始まって人生に”謳歌する”という意味が加わったことを感じさせるサラッとしたまとめ方がスタイリッシュだった。
個人的にはジョッシュのマイペースさと無邪気さを感じさせるような振る舞いは、結局”どこまでも富豪のお坊ちゃん”という感じで、魅力を感じさせるキャラクターではなかったのが残念だった。


偽りの王子と黒鋼の騎士 / 六青みつみ(イラスト:稲荷家房之介

[あらすじ]
グレイル・ラドウィックの愛と忠誠を、この僕に!ローレンシア王国の一粒種・エリュシオンは、蝶よ花よと育てられ、我が儘を我が儘だと思わず生きてきた。そんな王子に唯一靡かなかったのは、護衛騎士グレイル。エリュシオンは運命が変わるという魔法の水鏡に、グレイルのことを密かに願う。その時、世界は一変した。偽王子の烙印を押され、凋落したエリュシオンはグレイルの下僕となる。シオンと呼び捨てられ、一から育てなおすかのように接せられるうちに、シオンの中で捨てられずにいた気持ちが溢れてくるが――!?



[感想]:
シオンが肉体的にむごい目に遭うことも勿論つらいけれど、自分がいかに無知で、傲慢で、愚か者だったのかということに気づくシオンの姿に胸がつまる。過酷で残虐な試練のような苦しみを重ねながら、シオンが一人の人間として成長(再生)していく中で、グレイルに対する一途な想いの揺れ動く様が綿密に描かれていて、かなりの読み応え。
物語の佳境に入って、グレイルが凋落したばかりの頃のシオンに対してもっと親身になってやれたのではないかと悔やむけれど、ローレンシア王宮で政治利用するための傀儡としてわざと無知で傲慢なわがまま王子として放置されていた真実を知る由もなかったのだから、実際に対面していたまんまの愚かな王子のエリュシオンに、あれ以上の好意を持って配慮する気持ちになるのは無理だったんじゃないかな。グレイルに関してはむしろシオンを好きだと自覚してからの態度の方が、モヤッとしたり腹立たしく思ったりした。
個人的に気になったのは、シオンとは逆に本物の王子としてローレンシア王宮に入ったエリュシオンの方で、あちらはシオンのように肉体的に悲惨な目にあってはいないけれど、彼も政治に利用されるために人生をねじ曲げられた人物なので、大神殿に移住した後の人生が実のあるものになっていればいいな...という気持ちになった。
今まで読んだ六青みつみさんの作品の中で一番好きかも。



では、また!
浅葱 拝