きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

喪服の花嫁 / 芽玖いろは

[あらすじ]ワケあり寡黙年上ドライバー×義父に支配される大学生。秘密と傷を抱えた者同士の光と救済。「セックスなんて、奪われるだけの行為だと思ってた」雪刀が男に出逢ったのは、義父の命令で、性接待を終えた夜だった。射抜くような瞳に、精悍な面差し。その男――タクシードライバーの後藤は、義父と雪刀の異常な関係に苦言を呈してくれた初めての「大人」だった。雪刀の心も身体も搾取することなく、ひとりの人間として、対等に接してくれる。そんな後藤へ気持ちを募らせていく雪刀は、震えるように想いを告げるが―――。「好きになっても、いい?」「いいよ。けど――…」紙&電子共通特典ペーパーも収録。
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[感想]

パパ

とりあえず色んな意味でキモい。
後藤は「彼は息子である前にひとりの人間です」って言ったけど、あのパパは息子に妻を重ねて妻のように扱ってて、あの異様な執着は「妻」に対するもので、あのパパにとっての雪刀は息子でもなく、ひとりの人間でもなく、妻を投影しただけの存在としてしか見てなかったように思うんだよね。
雪刀が文章を書くことを嫌がってたのも、雪刀の才能に嫉妬してるとか追い抜かされるのを恐れて...というような作家としての矜持とか自尊心なんてものよりは、「妻」が外で接触する人間をできる限り排除したいからって心理だよねって見えて、あの矮小さと偏執さが、ほんとキモい。
やることなすこと嫌悪感。

義父と書いてパパと呼ぶ。その心は......

雪刀があのパパを切り捨てずに大切にして、何をされても、何をやらされても、平気なふりをして、自分の存在を痛めつけるみたいな生き方をしていた気持ちの根元にあったものって、なんだったんだろう。
どんな仕打ちをされても赦してきたのは、パパの孤独に気づいてあげられなかった後悔?
作家「月島春日喜」を心から敬愛する気持ち?
パパに必要とされることでやっと家にいていい理由ができたからとか、逆らうよりも受け入れた方が楽だったからって語ってたけれど、一番最初にパパが雪刀をレイ○してきたときに、心に寄生されてしまったんじゃないのかなぁと思ったんだけど、どうだろう??

後藤の膜の内側

訳ありな雪刀のことをつかず離れずの距離で接しながら、大事なところで助けになってあげて...って、そりゃあ雪刀は後藤のこと好きになってしまうよね。
雪刀はパパの孤独に気づいてあげられなかったと言っていたけれど、雪刀自身がその何倍も孤独だったし、誰にも何もわかってもらえずにいたんだから、後藤が雪刀のことを「ひとりの人間です」って言ったのを聞いて、雪刀は初めて自分という存在が具体的になったんだろうなぁ。
高校教師時代の失敗と後悔を抱えながら生きてきた後藤のその言葉は、ひとりの大人としての言葉だったのか、教師としての正しさから発したものだったのか...。
後藤の言葉が雪刀の心に染みたように、雪刀の「全部を背負いこむんじゃなくて、俺にも後藤さんの時間を分けて欲しい」って言葉が後藤の孤独に染みたの、よかった。


3年後に雪刀がまるで自叙伝のような「喪服の花嫁」という純文学作品で作家デビューしていて、少々できすぎ感...と思ったけど、パパの存在の喪失やそれまでの人生の清算アイデンティティのの再生をするために、雪刀には「書く」という行為が必要だったんだろうな。
そういえばパパが原因不明の出火で焼死するけれど、あれは事故なのか、パパの自殺だったのか...。私は自殺だと思ってるんだよね。


芽玖いろはさんは、いつも原色の一面背景で表紙をまとめているイメージを持っていたので、それとは一味違う人物にフォーカスしたこの表紙から、陰鬱で救いようのないストーリーなのかも......とある種の期待を持って購入したんだけど、どこまでもとことん落とし込められるほどの暗然たる絶望の空気感はなくて、割と呆気なかった。
もっと「蟷螂の檻」ぐらい悲惨なのを想像してたw


では、また !
浅葱 拝