きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

天水桃綺譚 / 凪良ゆう(イラスト:藤たまき)

[あらすじ]桃農家の亨が見つけた、金色の芳しい桃。それは、天から落ちた桃の精だった。金髪の美しい少年に変じモモと名付けられた彼は、天真爛漫に下界での暮らしを楽しむ。ぎこちなくも不器用な優しさで見守る亨と、純真なモモはやがて想いを寄り添わせていくが、それは許されぬ恋だった──。その後のふたりに加え、白虎さまに恋慕する、未熟な桃の精・コモモの切ない恋物語も書き下ろし。(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]
凪良ゆうさんがデビュー前に書かれた作品で小説花丸に掲載後、短編「うすくれないのお伽噺」として電子配信されていた小説のリライト作品である桃農家の亨×地上に転がり落ちた天の桃の精モモの話と、書き下ろしスピンオフである天の四神のひとり白虎さま×モモと同じ木に宿った桃の精コモモの話の二本立て。
それぞれ独立したお話だけど、登場人物も時系列も繋がっています。

亨×モモ

”天水桃”という特別に美味しいけれど他の誰にも作れない桃を作っている老人が、孫のように可愛がっている親戚の少年に「桃のお伽話」をするという導入部分から始まる老人・亨の若き日の話。
天帝の庭の桃の木に実っていた桃のモモが、亨のどんな言葉にも耳を傾け、真っ直ぐに受け止める様子は庇護欲が湧く一方で、天帝のためだけに生きて生を終わらせる存在の混じり気なしの純真無垢さを見せつけられて少しせつなくなる。
だからこそ、そんなモモが亨に心を寄せて、離れたくないと思う気持ちを抱いたことが尊くて...。

モモとの生活や語らいの中で、妻に逃げられた亨が妻の精一杯のぎこちない笑みを思い出したり、似ている互いの不器用さに気づいて想いを馳せたり、人間関係から引きこもっていた歪な自分に向き合って自分の孤独さに気づくところが、凪良ゆうさんの小説らしさを感じます。

亨がモモへの不毛な気持ちに気づいて離れることを決心して、白磁の紅茶カップを買うあたりからは、もうギューーーーって胸が苦しくなってきて、そのあとは涙なしには読めない...。
「人の子に、天の桃は授け難し」という白虎さまの言葉の本当の意味がわかるのは、亨が途方もない時間をかけて気持ちを貫いた後になるわけだけど、ほんっといい ! 尊い !(語彙力...)。

私は小説花丸の2008年春の号に掲載されたオリジナルを先に読んでいて、最初に読んだ時の「うわーこの作品好きだーーーっ」って気持ちとか、感動とか、その時に抱えた感情とかが沸き上がってきて、リライトされたものよりもオリジナルの方が余韻のようなものを感じられたような気がするんだけど(完成されていない余白的な魅力)、でも物語の本質を変えずに小説としての形を新たに成型させてまとめ上げたこの小説は、やっぱり凪良ゆうさんの作品だなぁと思います。

白虎×コモモ

モモが天に戻ってから泣き続けていたため、同じ木に宿ったもう一つの桃の実のコモモに十分な栄養が行き渡らなかったために、コモモは成熟した桃にはなれず、小さくて青いままなんだけど、それでも精一杯の気持ちで白虎さまにお仕えするコモモの健気さ、もう本当に胸に突き刺さるわー!
亨×モモの話が号泣なら、この白虎×コモモの話は大号泣 ! ! ! ! いやホントに。

白虎さまが天の帝ということもあって、時にコモモに対して、傲慢に振舞って無情な言葉を投げかけるのがすごくつらい。白虎さまがコモモを特別に想っているはわかっていても、そんな言い方しないであげてーーーっって泣きたくなる。
読み手からすると両片想いのすれ違いってわかっているけれど、コモモは白虎さまの言葉をそのままの意味で受け止めるから...お願いだから傷つかないでって気持ちでずっと見守ってたので苦しさ倍増。

コモモが崑崙山の険しい斜面を白虎さまを想ってボロボロになりながら必死に登って、ついには人の型に変化することもできなくなって、果実の姿で針山の植物に貫かれるところは、のどの奥が痛くなるくらい泣けた。

コモモの健気さも一生懸命さも一途さも、全部が愛おしくなるお話でした。
とにかく泣けた。


1冊丸ごと優しいけれどせつなさを含んだファンタジーで、シンプルなストーリーだからこそ、モモとコモモの一途さが際立ってたと思う✨
私は亨×モモの話よりも白虎×コモモの話の方が胸にくるものが大きかったなぁ。

BがLする燃え上がるような恋愛小説ではないし、まぐわいのエロスw はないので、そういうBL小説をご所望のご腐人はご注意くださいw


<余談1>
オリジナル版の「うすくれないのお伽話」は現在は販売が終了しているみたいです。
一応、hontoさんにはリンクが残ってますが...他の電子書籍サイトには見当たらず...。
honto.jp

<余談2>
ちなみに小説花丸2008年春の号はこんな感じ。
小説花丸はまだ実家に数冊残してあるかもしれないので、この号ももしかしたらあるかも...。
手持ちのMyデータには細かいラインナップは残ってなくて、ガラケーのカメラで撮った表紙しか残ってなかったw
データ入力し直してない手書きのノートには、ラインナップと各作家さんの掲載作のタイトルは残してると思うんだけど......そのノートも実家っぽいw
雑誌関係の購入記録と感想記録は手書きノートのままで、基本的な部分以外はデータ化してないんだよね...。
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では、また !
浅葱 拝