きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

白虎王の蜜月婚 / 華藤えれな(イラスト:高緒拾)

白虎王の蜜月婚 / 華藤えれな(イラスト:高緒拾)

[あらすじ]人間に変身する、獰猛な虎を捕獲せよ!! ――密令を受けた政府のスパイ・流河(るか)。生まれつき獣人を誘惑するフェロモンを持ち、その力で虎一族を狩っていた。ある日、一族の王族と思しき修道士フェリクスの捕獲を命じられる。だが人々から聖人と慕われる姿に躊躇ってしまう。そんな折、教会で銃撃事件が発生!! そこで流河の力を見抜いたフェリクスに、「きみの本能を目覚めさせる」と突然監禁され!?(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

現代ロシアの獣人もの

獣人ものだけど異世界の話ではなく、現代ロシアを舞台にしていて、スパイやマフィアといったハードボイルドの要素もあって設定はもの凄く凝っている。旧ソ連から想起される陰鬱で閉鎖的なロシアの冷たい雰囲気も感じられるんだけど...。
ロシア革命以前はロマノフ王家と共存して帝国を築いていた白虎(ホワイトタイガー)一族の復権を阻止するために、一族狩りをしている政府のスパイと、ホワイトタイガー王族との対立という構図に全然緊迫感を感じないです...。

自分の出生を知らない主人公の流河がスパイとして育てられ、スパイの危険な任務としてホワイトタイガーの王の疑いのある修道士フェリクスに近づいていった割に、あっさりとフェリクスに陥落させられて、出生の秘密が明かされて、たいした苦悩もなく自分の立場を受け入れて...って、スパイとして生きてきたこと以外に自分たらしめてる物が何もなかったはずの流河なのに、スパイとしての非情さとかアイデンティティとか何も持ってなかったってこと ? !
いやぁーそれだったらスパイって設定いらんだろ......。
陰謀や策略的な展開が用意されてるのに、せっかくのハードボイルドな側面の魅力もなくて、主人公がスパイという設定もストーリーを都合よく進めるときの単なる小道具になってる感じ。


ボリスと流河、ボリスとフェリクス

作中、会話でストーリーを説明して進めている箇所が多く、その割には会話劇のように会話によって着眼点が広がっていく訳でもなく、主要キャラクター同士の会話が多い割にはどのキャラクターにも膨らみがないせいで、流河もフェリクスもボリスもいまいちどこに魅力を感じたらいいのかわからない。
なもんで、ボリスと流河、ボリスとフェリクスの関係も掘り下げられることもないまま表面的な(会話的な)対決で流れされていったので、ボリスの最期にも感慨を抱けず...。
地の文章もプロット繋いだだけ?みたいに感じる不自然な部分が見受けられて、正直に言って、華藤えれなさんの小説でこれほど読み進めるのに苦労して苦痛を感じたのは初めてかもしれない...。

虎族

ホワイトタイガーの王国を再建するのではなく...というところに一族の終焉(新しい形)を帰結させたところはすごく好き。全体を虎族の存在と滅亡のストーリーに重きを置いていたら、もっとカタルシスがあったのになぁ...。
あと萌えとは別のところで、流河とフェリクスのエッチシーンで、どちらも虎の姿のままの交尾(虎×虎)っていうのが「なかなかチャレンジャーだな...えれなさん...」って感心させられたw

もしかしてこの作品は色んなことにチャレンジした小説だったのかなぁ❓
華藤えれなさんは好きな作家さんに入っているんだけど、これはダメだった。


では、また !
浅葱 拝