きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

月一滴 / かわい有美子(イラスト:花本安嗣)

[あらすじ]――誰かの一番になりたい。 ドアマンの橋本は、ゲイでいつも男運が悪かった。二股、暴力……普通の恋がしたいだけなのに、付きあうのはみな酷い男。最近も傲慢で橋本を馬鹿にしてばかりの飯島という男に言い寄られていた。ある日、橋本は飯島と口論になり殴られてしまう。その時偶然居合わせたバーの常連の嵯上に助けられる。嵯上の柔らかな優しさに癒され、嵯上もまた橋本の純粋さに惹かれ、二人は少しずつ距離を縮めていくが……。(電子書籍サイトの作品内容より)
f:id:BLnote:20191021203645p:plain

[感想]

向けられる悪意に傷つきながら悪意で返そうとしないからつけ込まれる

田舎から出てきて何もわからないうちにつけ込まれて無理やり出演させられたゲイビの醜聞を二丁目で広められて、本人の本質とは異なる噂ばかりの橋本という人物像が一人歩きしていても、じっと耐えて半ば諦めてる橋本。
橋本の性格的に強く反論することはできないだろうというのもわかるし、反論したらもっと酷い状況になるかもしれないという危惧もあるんだろうと思う。人を貶めて支配したり楽しんだりする人間は、どこまでも攻撃的になるものだから...。
ルックスが悪いわけでもなく、清潔で嫌味のない雰囲気を持っていて、それ相応に上玉だけれど、手を伸ばせば届くところにいるような存在だからこそ、橋本がタチの悪い男たちに言い寄られ、悪意を持って貶められるというのが、とてもつらい。

たまに誰かだけの1番になりたいって

しっかりとした仕事に就き、その仕事に対して実直で一生懸命な橋本が、理想の恋人像のように心の中で想いを募らせ、上司としてもとても尊敬している牧田。ゲイの友人もいなくて、恋人もいない橋本が、人生の支えのように思っていた牧田に男の恋人がいたことを知った橋本の喪失感。
自分が恋人になれるなんて思っていなかったし、自分が誰かの1番になれないことはこれまでと同じなのに...途方もないショックを受けた橋本が、つい嵯上に「寂しいなぁって」「ひとりになりたくないなぁって...」ってこぼすところは、ほんと胸につまる。それを嵯上に軽くいなされて、すぐに謝ってしまう辺りの橋本の心情、悲しすぎるよ。

その流れから二人で夜道を当てもなく歩きながら交わした会話は、嵯上の包み込むような優しさがいっぱいで、友情なのか年の離れた弟に手を焼いてる感覚なのか...と橋本自身は思ってたし、読み手としても嵯上の感情がどういったものなのかわからなかったけれど、この後の展開を見ると、きっと嵯上はこの時には橋本に特別な感情で惹かれ始めてたのかなぁ。
大人然とした嵯上が、柄にもなく焦って橋本に声をかけるバーでのくだり...ベタだけど好き(*゚д゚) !


「ゆっくり一緒に幸せになる方法を探してみよう」って嵯上の言葉と橋本への気持ちは、年上の包容力が光ってます✨
嵯上が橋本を好きになったきっかけ(瞬間)がはっきり描写されていないのは、言葉を交わし、途切れ途切れに関わりを持っていくうちに、橋本の誠実な人間性や寂しさに少しずつ惹かれていったからなんだろうなぁ。
人を見る目を持った大人の男性の嵯上のだからこそ、橋本の本質的な部分を認めて好きになった感じが大変よきです。


ちなみにこの「月一滴 -つきひとしずく- 」は、「上海金魚」「透過性恋愛装置」に続くシリーズ3作目...ということだけど、前の2作はあらすじを読んで興味を惹かれなかったので読んでませんw
今作中に前作までの登場人物と思われる人達がちらほら登場して、強いキャラクター性で絡んでくる人物もいるけれど、ストーリーとしてはこれだけでも十分楽しめました。

ただ、この「月一滴 -つきひとしずく- 」を読んで、ちょっと牧田さんと北嶋に興味を持って「透過性恋愛装置」が気になってはいるんだけど...北嶋のキャラを好きになれるかどうかが鍵って感じがして...悩。
脇として出てくる分には許せる尊大キャラと思えてもこれがメインとなると...。作中、嵯上も言ってたけれど「十歩ぐらい離れたところから見てると面白いけど、そばに来るともう十歩ぐらい離れたくなる」的な強烈な北嶋のキャラだから...w 
それに本作で垣間見えた牧田さんと北嶋の恋人関係が、ご主人様と飼い慣らし中の我がまま王子っぽい感じが...あまり趣味じゃない...かもしれない...。
とか言ってても、実際に読んだらめっちゃハマることもあるからねぇ 〜...
読むかなぁ......どうしようかなぁ、悩む。


では、また !
浅葱 拝