きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

掌の檻  / 宮緒葵(イラスト:座裏屋蘭丸)

[あらすじ]会社員の数馬は、ある日突然、友人にヤクザからの借金を肩代わりさせられ、激しい取立てにあうようになった。心身ともに追い込まれた状態で友人を探す中、数馬はかつて互いの体を慰め合っていたこともある美貌の同級生・雪也と再会する。当時儚げで劣情をそそられるような美少年だった雪也は、精悍な男らしさと自信を身につけたやり手弁護士に成長していた。事情を知った雪也によってヤクザの取り立てから救われた数馬は、彼の家に居候することになる。過保護なほど心も体も甘やかされていく数馬だったが、次第に雪也の束縛はエスカレートしていき――。限定書き下ろしSSも収録!【イラスト付き】
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[感想]

蜘蛛の巣...

それなりに順風満帆で、生まれながらに勝ち組だと言われてきた数馬が突如、理不尽な状況に追い込まれ精神的に困窮していたところに、救いの手を差し伸べる高校時代の同級生雪也。美人画から抜け出してきたような美しい少年だった雪也が、凄味を増した美貌の青年弁護士として数馬の前に現れ、高校時代に特別な関係を持っていた数馬は当初、雪也に対して少なからず反発を覚えるんだけど...。
数馬の根が真っ直ぐな部分と、高校時代の罪悪感と自惚れ等々の感情から、雪也に反発する気持ちはすぐに消えて、数馬は雪也にあっさりと心を許してしまって...。

用意周到に張り巡らされた雪也の策略が単なる執着以上の狂気を孕んでいて、じわじわと数馬が侵食されていく様子がねっとりとした感触を感じさせて、「それは完全に罠...!」っていう展開が読んでてわかっても、じわじわと囲い込まれていく受けの様子がすごくいい。
押しつけられた借金に関する問題が解決されるまで...というきっかけで雪也と同居することにしたのに、気がついたら蜘蛛の巣にかかって糸に絡めとられて身動きできなくなって、どんどん実社会から雪也の作った檻に追い込まれていくいく数馬の様子は見もの。

執着と共依存

誰かひとりに執着することなく生きていた数馬が、高校時代、唯一溺れるように肉体的な交わりを持っていた雪也との関係は、お互いに執着を抱かせるものだったけれど、数馬は雪也の肉体と性行為に執着していて、それは思春期の性的欲求が勝ったものだったと思うんだよね。それでも、そんな風に誰かに執着するなんて自分じゃない、と恐れをなして一方的に雪也との距離を置いて別れたわけだけど、雪也の執着は思春期の錯覚とか青春時代の思い出なんていう軽やかなものじゃなく...。

好きなんて生易しい感情じゃなくて、「僕が君の一部だと認識されるくらいに尽くして、溶け合いたい」と狂気めいた告白をした雪也だけど、その発言よりも、距離を置いて存在を切りたいと思ってたなら「僕を殺すべきだった」って発言の方が常軌を逸していて狂気を感じた。狂気というか尋常ならざる執着かw

雪也が数馬との同居生活で、雪也の作ったものしか食べられなくなるように調教した上で、数馬とのセックス中に「僕を食べて」とか「美味しい?」とか「食べる前には綺麗にしないと」とか「お腹を空かせたらかわいそうだから」って中出ししたり、生命活動の根源である食事することをセックスすることに結びつける発言で強烈な刷り込みをするところなんて、どこまでも数馬を依存させることに徹底していて、雪也の病み具合がもの凄く素敵

単なる執着攻めの策略にかかって陥落させられる受けの話ではなくて、攻めの心に執着心を植え付けた理由が、愛されることを知らなかった攻めが唯一好きになった相手に切り捨てられた果てに、相手への執着を募らせると同時に自分自身の感情にも執着している感じ...なかなか感情的で感傷的なんだよねぇ〜。
それに気づいた受けがすべてをひっくるめて相手を受け入れて、自分の人生を明け渡すという共依存の檻エンドが見事にハマってたと思う。


宮緒葵さんの執着攻めはいつも徹底していて良いわー。
「渇仰シリーズ」もかなりの病み系執着攻めだと思ったけれど、あっちは攻めの犬っぷりにかなりの変態さが入ってて、キャラを丸ごと受け入れる度量が受けと読者にw 必要な気がするけれど、この掌シリーズの執着攻めキャラは私的に全部ツボ。

というわけで、”掌シリーズ”の「掌の花」も読了しているので、そちらもあとで感想を上げますヽ(*´∀`*)ノ

では、また !
浅葱 拝


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