きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

慈しむ獣 愛す男 / 火崎勇(イラスト:兼守美行)

[あらすじ]両親を亡くし父の知り合いの神代誠士郎に引き取られた小倉広夢だが、無愛想で無口な神代は子供の広夢には恐ろしく、心を開けないでいた。そんなある日、広夢は古い蔵の中で守り神だという人語を話す狼・クラと出会う。クラは幼い広夢の話を聞いてくれ、以来広夢にとってかけがえのない存在となった。そして月日が流れ大学卒業を目前にした広夢は、クラにある秘密を打ち明ける。いつしか神代に抱くようになっていた恋心を…。兼守美行先生の口絵・挿絵も収録。
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[感想]

ここにいることが幸せなんだ

自分ではどうすることもできない人生の不条理を6歳にして悟って生きてきた広夢が唯一望んだこと......それが「せめて神代さんと一緒に暮らしていたい」というささやかなもので、途轍もなく尊くて、とても寂しい。
ストーリー全体に広夢のひっそりとした孤独がにじんでいて胸が苦しくなる。でも不条理をしなやかに受けて流していく広夢に、芯の強さや寂寥を感じさせつつ、重苦しい不幸としては描いていないところがとてもいい。

神代の不器用さとクラの存在の優しさ

広夢を育て支えてきた神代の不器用さと、クラの存在の優しさの対比を描きながら、広夢の本音と、神代のそばにいるために本音を隠そうとする広夢の心境を透けて見せる構成もいい。
BLセオリー的に「神代とクラは......なんだよね??」と思うんだけど、クラと話した直後に母屋で神代が現れるタイミングとか、「ん?......」と途中まで確信を持てずにいたんだけど、若林がやってきて「古い家だから隠し扉とか抜け道とか〜」とわざと話題にしたところで、やっぱりそうだよねと確信!←我ながら疑り深いw



実は火崎勇さんのここ数年の発刊作品はあまり読んでいなくて、昔よく購入していた時の作品イメージは、大人の男性たちのシビアな心理を、糖度の低い恋愛で描く作家さんという印象が強いので、この作品のストレートな広夢の恋心の吐露や、誤魔化しのない寂しさや孤独感というものに少し意外な気がしました。
とても素敵な作品だったと思います。

内容的には広夢の感情を追うストーリーで、大きな波乱のエピソードがあるわけではなく淡々とした印象ですが、静けさの中に感情がじんわりと滲み出ていく感じが好きだな。

寿命のことについて何も言及がないけれど、私は神代の方が広夢よりも長生きして欲しいと思う。
子供の頃から自分にとって大切なものや、失いたくないと思っていたものが失われるのを目の当たりにして生きてきた広夢が、人生で一番大切にしてきた神代のすべてを抱いたまま先に生涯を全うできて、神代に見送ってもらえる最期だといいなぁと思います。

(付記)
ストーリーには関係ないけれど、この小説、どうして一文ごとに改行していてるのかな??
紙で買っても本文はこの体裁なの??
昔の火崎さんの作品ってこんな一文ごとに改行してなかった気がするんだけど.......???


では、また!
浅葱 拝