きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

くるおしく君を想う / 沙野風結子(イラスト:朝南かつみ)

[あらすじ]憧れていたあの人が想うのは兄。弟の自分は疎まれていた――死を願われるほどに。その哀しい記憶から十三年、航希は兄の采登が失踪したことで焦がれていた男・莉一と再会する。采登の借金を肩代わりするという莉一は、その代償として自分が愛した采登の代用品になることを航希に求めた。甘い言葉も優しい愛撫も、自分へのものじゃない。抱かれるたび傷つきながらも、莉一への想いは今なお降り積もる…。狂おしくて甘い、危うい愛。(電子書籍サイトの作品内容より)




[感想]
これはちょっと、何から何まで合わなかったです。
攻めと受け、どちらのキャラクターの考えも行動も理解できず好きになれなかったし、その行動に至る気持ちもちっともわからなかった。
特に航希が、子供の頃の莉一に対する淡い恋心と、絶望するほどの酷い仕打ちを抱えていながら、成人して再会して兄の身代わりに抱かれて更に莉一に惹かれていくという......そこの気持ちが肝心なのに、恋に恋している自分に酔っているだけという風にしか見えず......。

キーパーソンとなる航希の兄・采登のキャラクターも、航希の目から見た兄の性格や態度という範囲でしかわからなくて、特に子供の頃の采登がきちんと描かれていないので莉一がどうしてあそこまで采登という存在に依存するのか、何も理解できないままストーリーが進んでいって、読んでいて上滑り感がハンパなかった。
航希にとっても莉一にとっても、采登という存在がそこまで大きいのなら、読んでいる側にその実像が掴めるような采登の魅力がないと......。

莉一のキャラクター性も、破綻している家族関係や、親の前で「優秀な息子」で居続けようとした苦悩という見えない根幹に、航希・采登兄弟の関係性が絡むストーリーの軸となってるのに、関係性の決着がついた後に本人がセリフ説明しただけで、そこに生々しい感情が付随していないので、ふーん、ぐらいにしか思えず。子供の頃から現在に至るまで、怜悧に見せてるけれど単なる情緒不安定な底の浅い人間という印象しか残らなかった。
しかも航希に対する感情の変化をストーリーの中に入れ込まず、クライマックスでセリフで説明して二人でハッピーエンドって......ないわー。
ストーリーもご都合主義な展開で......ないわー。


残念ながら登場人物の采登、航希、莉一にまったく魅力を感じられず、何よりも沙野風結子さんの作品にしてはストーリー性が乏しくてびっくりした。


ではまた!
浅葱 拝