きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

狼への嫁入り〜異種婚姻譚~ / 犬居葉菜 

[あらすじ]異種間カップルの人外結婚BL。異種な上に“いけ好かない”同士の婚約。狼族には“嫁体化”(かたいか)というしきたりがあった――。兎族の少年・楓は、村のために 狼族の名家に嫁入りすることになった。人身御供のような結婚に腹を立てながらも持ち前の負けん気で前向きに婚約者と対面した楓だったが、跡取り息子の練は、なぜか冷たくつっけんどん。しかも着いて早々、「異種間で番になるためにお前の体質を変える」と楓は“嫁体化薬”という薬を飲まされ、指で後孔を抉られた。それが、正式な婚儀まで1ヶ月間施される“嫁体化”の始まりだった――。冷たい跡取り息子狼族×隠れ強気な村育ち兎族。【紙&電子共通応援書店ペーパー収録】(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

楓と練

食糧難の貧しい兎族の村に、狼族の名家から2年間の支援と引き換えに嫁を乞われ、人身御供のような形で狼族の村に嫁入りすることになった楓がとても魅力的。
自分を不憫と思う気持ちをなんとか抑え込んで、狼族の村で幸せになろうと奮起する前向きさというか、健全な魂の推進力みたいなものを感じられるのがすごくいい。

まずは自分が努力するところから初めて、謙虚な気持ちを忘れずに求めるばかりじゃいけない、と自分を叱咤して練に歩み寄ろうとするところとか、玄依家の一員として商いについて学ぶ姿勢とか、健気というよりも自分に対しても周囲に対しても真面目に向き合う姿がとても好感。
練に「は?」とキレてから感情の躍動感が弾けるように出てきて、そこからは楓のことが一気に好きになる。


練は最初の百代結の儀式の態度とか、その夜の嫁体化初日の言動から、不本意な結婚に対する苛立ちを楓に当てこすっているのか?と思ったけれど、悪意があるような感じはなくて、少しずつ楓に感情を見せ始めたので楓を嫌っていないことはわかったけれど、何を秘めているんだろうかと正直、謎だった。
実は素っ気ない態度も、無感情なのも、”先祖返り”を抑制する為に子供の頃から感情を無くす薬を飲んでいて、感情が育っていなかったからだったんだよね。
それがわかるのが物語の終幕あたりになるんだけど、そんな練の事情を知らないまま接していた楓が、意図せず練の感情を引き出していった、という視点でもう一度読むと、この二人の関係性の変化と、それに伴った感情の動きがとても尊い


ただ練の”先祖返り”からの流れは、ドラマチックではあるけれど急転直下というか一気呵成というか...若干、駆け足だった印象。
収容所のエピは二人の心が通い合った良いシーンだったと思うけれど、私的には、村長と血の繋がりがないからから人身御供にされたと思って心の中で落ち込んだり拗ねたりしていた楓が、練にそれは違うんじゃないのって理由を聞かされ頭ポンとされて、「足が軽いな」ってなる一連のシーンが、全編を通して一番心に響いた。楓の心の澱みが澄んで心も体も軽くなったことを、柔らかい光が溶けるようなトーン処理で表現していたのも素敵。

練の一族の人たちについて思うこと

楓が練の家に着いた瞬間から練の家族が楓のことを心から歓迎してくれて、暖かく迎え入れてくれて、楓のことを大切に思っているのがわかる接し方を見て、玄依家の人達は本当にいい人達なんだろうと思う。
でも楓に、狼族に稀に生まれる”先祖返り”のことや、嫁体化のことを何も知らせずにいたのは、どういうことなの。
もしかしたら”先祖返り”のことを狼族の恥部のように思っていて知られたくなかったのかもしれないけれど、事が起こった後に、原因となった裕士さんから説明されて初めて知るっていうのは...あれが切迫した状況だったことと、楓だったから納得してくれたかもしれないけれど、一族に迎え入れる立場の玄依家の人達から楓に話がなかったことに、ちょっとばかりの不信感を持ってしまう。
そこら辺は狼種の気質的なものなのかな。あんなにいい人達なのに、種族的なヒエラルキーの意識があるのかなぁ。よくよく考えたら食糧難の援助と代替で嫁を要求してくるんだもんな...。
いや、ほんと、いい人達っていうのはどのコマ見てても伝わってくるから本当にいい人達だと思う、でもちょっとモヤったのも事実。


江戸時代っぽい街並みの世界観とか、躍動感のあるストーリー運びとか、キャラクターの造形とか、画力(絵)とか、色んな魅力の”いい❗️”がつまってる1冊で、すごく好きです。
ストーリーの組み立てとか、アニメのような流動性を持って物語を描いているところとか、漫画描くのめちゃくちゃ熟練してる方なのかな?と思ってたけど、これがデビューコミックスですか......すごい。
ファンになりました✨


では、また!
浅葱 拝