きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

獣使いは守護獣と愛を誓う / 月東湊(イラスト:榊空也)

[あらすじ]生まれてすぐに親に捨てられた琉央は雑技団に拾われ獣使いとなった。珍獣好きな王妃に招かれ宮中に上がった琉央は、末の皇子が飼っている美しく雄々しい獣の世話を任される。名前のなかった獣に綺羅と名づけ可愛がり、年下の皇子とも少しずつ心を通わせてゆく琉央だが、綺羅がこの国の守護獣であり、その悲しい運命と皇子との関係を知ってしまい?電子限定書き下ろしSSを収録!!(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

獣使いと皇子...皇子の獣

獣使いの琉央が皇子の獣である”綺羅”をお世話しながら、綺羅を通して皇子と心を通わせていく様子が描かれている序盤は、獣人モノのセオリーを踏襲しているので、綺羅と皇子が入れ替わりで登場することとか、綺羅に皇子のことを語る琉央とか、琉央の前でくつろぐ綺羅とか...お約束的展開を楽しめる。
中でも、獣といることが好きだという琉央が綺羅について語る言葉に泣き出した皇子のシーンは、それまでの気難しい皇族のイメージしかなかった年下皇子の幼い弱さが素直に流れ落ちたシーンで、とても好き。
この時どうして皇子が”自分の獣”のことを嫌いだと言ったのか...というのが少し後になってわかるのだけれど...それがつらい現実で...。

守護獣という運命

獣の綺羅が実は皇子で...というのは当然わかっていた事だけど、皇子にとっても琉央にとっても”綺羅”の正体がわかるエピは、残酷でショックな出来事になっていて、いわゆる獣姦レイプ...。琉央は命を落しかねなかったけれど、獣性に支配された皇子の苦しみに寄り添って側にいる事を選択するというのが、それまでの琉央らしさそのものという感じで、優しすぎるとかいい人すぎるとかいう過剰な印象を与えないのがいい。
琉央の自然な行動が結果的に「獣と生きる」という予言に添う辺りを丁寧に描かれていて良いです。

国を守る”守護獣”というのが象徴的な意味ではなく、戦場に赴き前線で闘う存在で、皇子が守護獣になって初陣したのが10歳の時というのが...キツい。胸が痛むわ...。
物語の後半は、そんな守護獣に課せられた過酷な責任を背負っている皇子の運命に焦点を当てていて、生きることを諦めていた皇子が、琉央と共にいることで今まで知ることのできなかった王や王妃の真意を知り、本当の意味で守護獣をその身に受け入れる様子が描かれていて、かなりボリュームを感じさせる内容になっています。


常に王妃が味方になって事態を好転させるのはワンパターンだなと思ったけれど、このボリュームの内容を散漫にせずに、上手くまとめ上げていると感じました。
また、傍から見ると、捨て子で獣以下の価値しかない最下層の”獣使い”をしている琉央は不憫な存在のように思えるけれど、琉央自身が自分の境遇を嘆くわけでも哀れむわけでもなく、獣と過ごすことに安らぎを感じていて、”獣使い”であることを何の含みもなく受け入れているので、その気負いのない自然さがこの物語を支えていて、皇子の境遇等の過酷さを孕んだ内容を含んでいても、小説全体は柔らかい印象だったかな。

東湊さんの小説は数冊しか読んだことがなくて、あまり馴染みのない作家さんだったけれど、ちょっと過去作を掘り出しにいきたいと思わされる魅力がありました。


では、また!
浅葱 拝