きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

2019年のBL漫画マイベスト的な。

やっと2019年マイベスト的な記事を...。

2019年(2019年1月1日〜2019年12月31日の間)に出版されて好きだと思ったBL漫画14作品。

  • 2019年BL本マイベストの記事を作ろうと思って色々準備して作っていたんですが、順位つけるのはしっくりこなかったので、好きだと思った作品(印象に残っている)をピックアップという形で一覧にしました。
  • 連載作品は作品全体ではなく2019年に出版された巻数のみ対象で好きかどうか考えました。

(順不同/敬称略/あらすじは電子書籍サイトの作品内容から) 
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きっと、幸せな結末 / 麻生ミツ晃

親に殺されるはずだった自分は、生まれたときに一生分の幸運を使い果たしたのだ――ろくでもない男ばかりに引っかかるバーテンダーのすみれは、幸せを諦めて生きている。親とも疎遠で、寂しさにも慣れているはずだった。けれど遠い親戚の大学生・佑真と再会し懐いてくる彼と過ごすうち、佑真との時間に安らぎを覚えていく。一方、佑真はすみれへの想いを強くしていき――。せつなく愛しい年の差ロマンス。

ひとこと:
想う相手を大切にするというのは自分を大切にすることと同義なのだという愛の心境にたどり着くまでの、せつない痛さと寂寥感がとにかく美しい。押し潰されそうな静けさの中で揺れ動くキャラクターの気持ちを追いかける1冊で読み応えがあった。麻生さんは文芸小説か映画のような構成の漫画を描かれるので作家買いしていて全作持っているけれど、この作品はトップ3に入るくらい色んなことが美しくまとまっていたので大好き。


コミックパーティ ワンダーラブ (1)(2) / 山野 でこ

男だけどBL漫画家をしている雷蔵はひょんなことから同じく男でBL作家をしているTOSと知り合う。性格はリア充でイケメンだけど作風は闇BLで売れっ子の雷蔵に対し、作風はふわあまBLだけどコミュ障陰キャで人気はイマイチなTOS。なにもかも正反対な二人なのに、酒の勢いでなぜか付き合うことになってしまい…!?

ひとこと:
2019年1月に1巻が、12月に2巻が出版されてます。TOS先生の陰キャっぷりと雷蔵先生のリア充っぷりの対比がどこまでも面白い。チグハグなやりとりから発展していく関係性の展開も納得で、サブキャラもみんないい味出しててキャラが立ってる。TOS先生のウザいぐらいの捻くれ思考が段々可愛く見えてくる不思議w 雷蔵先生が描くBL漫画の作風も好き。


ほしの動物園恋物語 / 小山

美大を志す専門学生の栗原は昔から動物が人型に見え、話ができる。そのせいで他人との距離はやや遠めだが「ほしの動物園」にスケッチに通っているため動物たちのよき相談相手だ。園内では、シジュウカラとリスの小さな恋、年下ライオンから年上ライオンへの猛アタック、おっさんペンギンの想い人は男性飼育員、そして栗原くんにも春の予感…!? など様々な恋が進行中v 読めば心が温まる、動物園で繰り広げられる超癒し系BL登場。

ひとこと:
ほのぼのBL。ちょっぴりせつない要素も踏まえながら、一生懸命な動物たちが繰り広げる恋の気持ちがかわいくて微笑ましい。恋と友情の物語としてシジュウカラとリスの1話目が一番好きかな。


花がら摘み 上下 / ツバ ダエキ

想いを上手く伝えられない攻め×自分に自信が持てない受け。学生時代、頻繁に絡んできていた二つ年上のあの人。言動の意図が掴めなくていつもモヤモヤさせられる存在。“Ωだからαに惹かれる、それが必然?”眼鏡、そばかす、恋愛には疎い、Ω…それが霜月 柊(しもつき しゅう)。学生時代にちょっとしたことから年上のα・皐月 菖蒲(さつき あやめ)に頻繁に構われるようになる。自分勝手にちょっかいをかける菖蒲に、柊は悶々としたストレスを抱えていた。待ちに待った卒業でようやく自由になれると喜んだのもつかの間、2人は就職先で再会する。大嫌いだと思ってた、だけどずっと忘れられなかった。フェロモンのせいなのか、それとも別の何かなのか――。

ひとこと:
この作品のタイトルを「花がら摘み」にしたことで、物語の良さを引き上げた感じがする。受けは何だかんだと面倒臭い性格してるなぁ...って思うし、攻めも受けもわりと自己完結型のキャラクターなんだけど、そこの不甲斐なさというかダメさ加減をちゃんとダサく描いていたのがいいと思った。


うつくしい体 / 鹿島こたる

駆け出しのタトゥーアーティスト・夕路の元に舞い込んだ一件の依頼。それは、美術界の巨匠・泰泉の名画をミチルの体に彫るというもの。泰泉が囲い育てた専属モデルのミチルは、顔、体、その存在自体がまるで芸術品のように美しかった。美人ゆえの傲慢さを身に纏ったミチルだが、浮世離れした環境で育った彼は純真無垢で、少年のような愛らしい一面も持ち合わせていた。ミチルの白く艶めかしい体に墨を入れる瞬間、夕路は自分の中で沸き起こる欲望の気配を感じた。“外もナカも、彼に俺を刻み付けることができたら――…”慈愛溢れる肉食系彫り師×巨匠に飼われる無垢な美青年モデルの歪な箱庭で育まれる美しい愛。

ひとこと:
モデルの持つ妖しげな魅力というか雰囲気が絵にぴったりで、攻めのタトゥ・アーティストと受けのモデルに絡む美術界の巨匠の関係性が好きなバランスだった。"自分の作品"の体に傷をつけたミチルを一分の揺らぎもなく切り捨てた巨匠の芸術家としての厳しさが特に好きだわ。中盤からは夕路とミチルの甘いラブ・ロマンスで割とよくある展開だけど、淡く色づけられるみたいにミチルの未熟な心が育っていく過程が描かれていて良かった。


アンチアルファ / 奥田 枠

優秀なアルファのみが通う学園の2トップ、上代と瀬名。ある日、セフレを抱いている瀬名を目撃した上代が、彼の強烈なフェロモンにあてられ、発情してしまう。アルファの自分がなぜ、と熱を孕んだ体を持て余し苦悩する上代。そんな上代に瀬名は抗いがたい誘いをかける……!奥田 枠が描く、強制発情(ヒート)から始まるデュエルオメガバース

ひとこと:
αやΩとしての本能でもなく、α×Ωの運命でもなく、「互いに魅かれて愛した」という関係の着地点にたどり着くまでの濃厚な愛憎劇。全体的にかなり卑俗的な印象でいつもの奥田枠さんの作品世界とは一線を画していて、ここまで徹底的にやってくれたことにも好感を持った。


しあわせに満ちた夜の庭 / ロッキー

いっそΩに生まれればよかったのに――麗しい見目に、控えめな性格。周囲から散々そう言われてきたαのノアが出会ったのは、宮田一という同じαの男。お互いαで、しかも男同士の恋なんて許されるわけがない。ひとときの幸せだと憂うノアだけど…。己が感じた“運命”を手に入れる為ならなんでもする、打算的で欲にまみれた、α×αの恋愛。

ひとこと:
「かげふみの恋」に収録されていた「僕たちはまるで誘蛾灯のように」のスピンオフで、あっちはさほど刺さらなかった(というより読んだことも忘れてた)けれど、このスピンオフは好き。”ひとときの恋”としてα×αの恋愛を始めながら、”唯一の愛”になる展開が綺麗。温度の低い静かな物語で、美しく儚い雰囲気の受けが、αとしての執着を見せる瞬間が特に良い。


先輩、断じて恋では! /  晴川シンタ

CGデザイナーとして経験豊富な柳瀬は、新人・金田への教育係になったはいいが、なかなか金田との距離を詰められずにいる。頑張り屋なのは分かるが、表情を全く崩さない上、ちょっとしたスキンシップを図っても「触らないでいただきたいのですが」と拒否されてしまうのだ。落ち込む柳瀬の一方、金田は金田で、柳瀬を持て余していた。実は金田は、「神」と崇めるほどに柳瀬を尊敬していて…!?

ひとこと:
晴川シンタさんの漫画はあんまり好きじゃないんだけど、これはすごく良くて驚いたので選んでみた。過去に感想記事上げてたんだけど、この頃はプロフに文芸編集者のことを明記してなかったので、テンション高くて変なノリしてる...なんかすみませんw
blnote.hatenablog.jp


僕等に名前をつけるなら 上下 / あがた 愛

…弟だなんて、知りたくなかったな高校3年の春、遠坂和泉は弟・矢野馨と再会した。両親の離婚で離ればなれになって7年、寮の相部屋で再び一緒に生活することに。低くなった声、赤く染まった髪、大人びた表情、知らない名字……何もかも変わってしまった彼に最初は弟だと気づかず惹かれていく和泉。兄弟同士のはずなのに、胸に芽生えたこの感情は…?

ひとこと:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


二代目! 地獄ブラザーズ /  tacocasi

お父さんは閻魔王!この恋、ぜったいに秘密です!冥界で死者の罪を裁く10人の王さま・十王。その十王をそれぞれ父に持つ息子たちは、二代目王を継ぐべく日々修業中!閻魔王の堅物息子・閻魔は、宋帝王の飄々息子・宋帝にいつもからかわれてイライラがとまらない!ある日、人間の性愛を学ぶ授業で、試験に落第してしまった閻魔は、やむなく宋帝に助けを求めるが、宋帝から「性愛は実習しなければわからない」と言われてしまい?!10人そろってお年頃"地獄の王子様"たちの十人十色な恋模様!

ひとこと:
オムニバス形式で描かれる”冥界の後継者たちの恋愛模様”という独創的な世界観がすごく良かった。派手さはないけれど堅実な話運びで、それぞれのCPにそれぞれの面白さがあるのも良い。特に好きなのは秦広×黒笠(セイ)の話。


ためつもの / 明治カナ子

山の神の声を聞く能力を持つ覡(かんなぎ)。覡には彼らと身体を繋げることにより、彼らに力を与える特別な相手「ためつもの」が存在する。雨敷家の覡・定用は「ためつもの」の豊を疎んじており、豊もまた「ためつもの」に選ばれてしまったことを納得できないでいた。身体を繋いでも、心が離れた二人の行為は山の神に届かず―――!?

ひとこと:
明治カナ子さんは作品の世界観が独特で、絵のタッチも多分かなり好き嫌い分かれそう。私は好きです。鬱々とした民俗学のような世界で、残酷さとほのぼの感が混合しているのが良い。


狼への嫁入り〜異種婚姻譚~ / 犬居葉菜

異種間カップルの人外結婚BL。異種な上に“いけ好かない”同士の婚約。狼族には“嫁体化”(かたいか)というしきたりがあった――。兎族の少年・楓は、村のために 狼族の名家に嫁入りすることになった。人身御供のような結婚に腹を立てながらも持ち前の負けん気で前向きに婚約者と対面した楓だったが、跡取り息子の練は、なぜか冷たくつっけんどん。しかも着いて早々、「異種間で番になるためにお前の体質を変える」と楓は“嫁体化薬”という薬を飲まされ、指で後孔を抉られた。それが、正式な婚儀まで1ヶ月間施される“嫁体化”の始まりだった――。冷たい跡取り息子狼族×隠れ強気な村育ち兎族。

ひとこと:
2019年のニューカマー作家さんの作品の中ではダントツで好き。
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


STAYGOLD (4) / 秀良子

何も知らずに、100年生きるより。中山家のプレイボーイ×10年来の執着片想い――衝撃のコウ&日高編。
「お前は俺の、すべて」 時はさかのぼり、駿人が中山家を出て少し経ったころ。このままの関係で幸せだとかみしめていた矢先、どう転んでか、コウと「キスを許される関係」になってしまった日高。わけもわからぬ夢心地と、あふれだす欲望。気がつけばコウとは、身体をつなげる関係になっていた。たぶん、人生で最高な時間。なのに日高の心には、何故か小さな不安が降り積もって…?10年ぶんのコウと過ごした時間。その一瞬一秒は、永遠に忘れることはない。

ひとこと:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


囀る鳥は羽ばたかない(6)  / ヨネダ コウ

これまで守り通してきた一線を、ついに越えてしまった矢代と百目鬼百目鬼は矢代がかけがえのない存在であることを、矢代は百目鬼への感情の正体と、自らをかたちづくる矛盾の正体に直面する。大切だから、離れない。大切だから、手離す。平田との抗争が切迫する中、百目鬼を捨て、ひとりでけりをつけようとする矢代だったが……命をかけた抗争の行方は?矢代と百目鬼の関係は?怒濤の新展開!!
 

ひとこと:
「囀る鳥は羽ばたかない」は古典的なBLの愛憎の歪みを、ヤクザの世界観で覆ったことによって人間ドラマに昇華させている作品だと個人的には思っているんだけど、時々ものすごく極端にメロドラマ調に振れることがあるので、そこに対して釈然としない気持ちを抱えてしまって盲目的に支持できないまま6巻まで追ってる。
6巻に関しては平田の存在が、ヤクザ世界の道理の中で、ひとつのカタルシスを描いていて良かった。あのホモフォビアの裏にある強烈な愛憎があの形となって終焉する憐れさが筆舌し難い味を出してた。
なんとなくだけど、この6巻以降の展開を当初見据えていた着地点から変更したんじゃないのかなぁと感じたんだけど、どうなるかな。


 
では、また!
浅葱 拝