きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

2月に購入したBL小説(全8冊)

この記事をまとめていて、2月発売で購入予定だったのに取りこぼした作品が複数あることに気がついたw
ということで2月は少なめの8冊です。

(順不同/敬称略/あらすじは電子書籍サイトの作品内容から)
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竜騎士は最愛を捧げる / 佐竹 笙(イラスト:)

[あらすじ]
竜を惹きつける匂いを持つために「竜殺し」と呼ばれる一族に生まれたリクは、病に倒れた母親を助けるために「竜狩り」に加担する。だが竜の傷つく姿を目の当たりにし罪悪感にかられたリクは、竜の国に助けを呼びに行くことを決め、そこで騎士団隊長のアルヴィンに出会う。母を看取れなかった後悔や孤独感から涙が溢れるリクに「自分を否定して、傷ついて泣くな」とアルヴィンは優しく受け止めてくれるが、アルヴィンに自身の出自を告白できないまま故郷に戻ることになり…?


[感想]:
クールでイケメンでスパダリ属性の攻め様なのに、リクに”ブルードラゴン(の自分)”をベタ褒めされて赤面・照れまくり・挙動不審になるのがツボ。リクの体質のせいで密着してたらナニがナニな状態になって、それを部下に察せられるとか...かなりいいキャラしてたw
誘拐された竜を救って解決なのかと思っていたら、後半には「ユニノの民」に関するシリアスな展開が待っていて、”魚類の体外受精”的な方法で種の絶滅危機を防ごうとしてきたことなど、オリジナリティを感じられる設定で面白かった。ただ枢機卿が良い人っぽく受け入れられてたけれど、ユニノの民に対するこれまでの政策を見ていると決して聡慧で良い人物とは思えず、どういう人物として描きたかったのかな...いまいち人物像を描ききれていなかったと感じた。
文章力に拙さを感じる部分もあるけれど、なかなか面白かったです。


いつかあなたに逢えたなら / 片岡(イラスト:yoco)

[あらすじ]
疎遠だった父が死に、桐ヶ谷律は父が子供を売買する犯罪者だったことを知る。父の屋敷には、かつて「商品」だった美しい青年・蒼生が遺された。戸籍もない蒼生を追い出す訳にいかず、二人はともに暮らすことになるが、律は娼婦だった蒼生を嫌悪し冷たくあたった。しかし何故か蒼生は「お役に立ちたい」と懸命に尽くしてくる。一方通行の関係は、律が友人に裏切られ、怒りをぶつけるため蒼生を抱いた夜から変わりはじめるが……。



[感想]:
金持ちの小児性愛者のための”商品”として生きてきた蒼生が、唯一の”優しい想い出”として大切にしてきた想いの先の律に盲目的になる心情は理解できる。商品として生きてきた以外に何もできないことや、自分の存在自体がひどく特殊なことも自覚し申し訳なく思っていて、律にどんなに辛く当られてもただただ受け入れる静けさはとても好き。
ただ律については、父親について拒絶感を持って負の感情にまみれるのは理解できるけれど、それを蒼生にぶつける態度にはとても不快感を覚えた。仲間との会話もそうだけど、短慮で癇癪持ちで独善的で、上手くいっていっている時は良いけれど、上手くいかなくなったら機嫌が急降下して周りに当たり散らすタイプ。蒼生を嫌悪するように無視し、散々な態度を取っていたのに、セックスしてからの突然の変わりようときたら...。受けの蒼生の心情に比べると、攻めの律の心の動きは大雑把にしか描かれていないのが惜しまれる。
初めて出逢った庭が美しいファクターになっていて、静寂をはらんだ文章と全体的な雰囲気には魅力を感じた。
こちらが商業デビュー作ということですが、この作品はいかにもBL的な特殊な身の上の主人公を描いているということもあり、独特の雰囲気とオリジナリティを上手く練り合わせていたと思いますが、今後どういう題材で自分の作風を作り上げていくのか、本作以降の作品創りが気になる新人作家さんだと思います。


パブリックスクール —ロンドンの蜜月— / 樋口美沙緒(イラスト:yoco)

[あらすじ]
二年間の遠距離恋愛が終わり、ついに恋人の待つイギリスへーー。名門貴族の御曹司で巨大海運会社CEOのエドと暮らし始めた礼(れい)。まずは自分の仕事を探そうと、美術系の面接を受けるものの、結果は全て不採用!! 日本での経験が全く役に立たない厳しい現実に向き合うことに…!? エドの名前には頼りたくない、けれど恋人の家名と影響力は大きすぎるーー甘い蜜月と挫折が交錯する同居編!!




[感想]:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


狼王の思し召し / 栗城偲(イラスト:榎本あいう)

[あらすじ]
幼い頃、獣人の少年の持つ指輪と、宝物の計算機を交換して結婚の約束をした乃亜。それから数年後。身寄りをなくし、田舎から街へ職探しに出た乃亜は人攫いにあってしまう。助けてくれたのは、あの日の少年・魁だった。獣人国の王となっていた魁は「あの日の約束は今でも有効だ」と乃亜を花嫁として迎え入れ、優しく愛を囁いてきて……!?種族も身分差も乗り越える二人の切なくも甘いラブストーリー。




[感想]:
乃亜がそろばんを用いた計算や会計知識で、乃亜を遠巻きにしていた城の獣人達に認められることや、帳簿の確認から新たな事件に繋がっていく成り行きは自然なんだけど、全体的に問題を深く掘り下げることなく解決して次に展開していくので、小説としてはだいぶ物足りない。戦争、横領、人身売買、前王の後宮の愛人といった問題が扱われているけれど作品全体の雰囲気に深刻さはなく、問題が起こってもトントン拍子に解決するので、さらさらと読み進む。乃亜と魁が絆を深めて仲睦まじくしていくのを見守りつつ、弟の理央の可愛いもふもふショタ感を楽しんでさくっと読了。


獣人アルファと恋の迷宮 / 成瀬かの(イラスト:央川みはら)

[あらすじ]
養い親を亡くし孤児シシィは迷宮都市へとやってくる。二十人もいる幼い弟たちを養うため、死に神のように禍々しい姿をしたオメガ嫌いの獣人・ラージャと組んで迷宮へと潜り始めたシシィはベータだと思っていたのに突然発情期に襲われ驚愕。激怒したラージャに嘘つきと責められた挙げ句激しく抱かれ妊娠してしまう。一人で子供を産む決意をするも、気づいたラージャが求婚してきて──。プロポーズは子供ができたから? それとも……?



[感想]:
📌こちらに感想記事あります。
blnote.hatenablog.jp


ロマンス不全の僕たちは / 月村 奎(イラスト:苑生)

[あらすじ]
もう長い間、恋をしている。美容師の昴大には秘かに想う相手がいた。芸能事務所にスカウトされるほどかっこよくて、才能があって、だけどどうしようもなく愛想がなくて言葉がきつい同僚、遠藤進太郎だ。周囲からは明るくムードメーカーと思われている昴大だが、本当は傷つきやすく、臆病な一面を持っていた。だから、遠藤にも告白するつもりはなく、今の、一番親しい同僚という立ち位置で十分なはずだった。それなのに、遠藤の地元へ引っ越して、遠藤の美容院で働くことになってしまい!? 無口無愛想×隠れ繊細のハートフルラブ登場!



[感想]:
片想いを隠しながら想い人・遠藤の友人としての立ち位置でそばにいる昴大の気持ちが繊細に描かれていてギュンとくる。明るく振る舞っているのに軽薄で嫌な印象にならない文章力があるので、振る舞いの裏に隠された臆病な心の動きに真実味が灯っている。
ずっと平行線を辿っているように見える二人だけど、デレ要素一切なしの塩対応な態度に見えた遠藤が実は「デレまくり」っていう...わかりづらいわw そのわかりづらさすら魅力になるんだから得してるな遠藤。
遠藤の言葉のなさに物足りないと感じないわけではなかったけれど、本編後の「雪の日の帰り道」で、遠藤視点の昴大とデレまくりの遠藤の心の声を聞けて満足。
片想いのせつなさを描いているけれど、いつもの月村奎さんのテイストとは少し違って、感傷的になり過ぎていないのがすごく新鮮だった。


見初められたはいいけれど / 水原とほる(イラスト:ミドリノエバ

[あらすじ]
留学準備で来日した、取引先の大企業の御曹司――その女癖が悪いと噂の放蕩息子の世話を、上司に命じられてしまった!! 内心の不満を押し隠し、部屋を訪れる澄人(すみと)。ところが、その男ジョッシュに、「面倒を押し付けられて、イラついてるね?」と、笑顔であっさりと見抜かれてしまう。評判と違って、洞察力に優れたかなりのクセ者だと驚く澄人だが、なぜかその後、連日呼び出されるようになり!? 



[感想]:
種類の異なる孤独を抱えている澄人とジョッシュだけど、ジョッシュが澄人の孤独を知る前に澄人に魅かれたのに対して、澄人はジョッシュの内なる孤独感に気づいたことでジョッシュのことが気になるようになる辺りの”孤独感”の扱い方がとても良かった。
澄人にとって人生は平坦さを求めるものだったけれど、最後の数行で”第三の人生”が始まって人生に”謳歌する”という意味が加わったことを感じさせるサラッとしたまとめ方がスタイリッシュだった。
個人的にはジョッシュのマイペースさと無邪気さを感じさせるような振る舞いは、結局”どこまでも富豪のお坊ちゃん”という感じで、魅力を感じさせるキャラクターではなかったのが残念だった。


偽りの王子と黒鋼の騎士 / 六青みつみ(イラスト:稲荷家房之介

[あらすじ]
グレイル・ラドウィックの愛と忠誠を、この僕に!ローレンシア王国の一粒種・エリュシオンは、蝶よ花よと育てられ、我が儘を我が儘だと思わず生きてきた。そんな王子に唯一靡かなかったのは、護衛騎士グレイル。エリュシオンは運命が変わるという魔法の水鏡に、グレイルのことを密かに願う。その時、世界は一変した。偽王子の烙印を押され、凋落したエリュシオンはグレイルの下僕となる。シオンと呼び捨てられ、一から育てなおすかのように接せられるうちに、シオンの中で捨てられずにいた気持ちが溢れてくるが――!?



[感想]:
シオンが肉体的にむごい目に遭うことも勿論つらいけれど、自分がいかに無知で、傲慢で、愚か者だったのかということに気づくシオンの姿に胸がつまる。過酷で残虐な試練のような苦しみを重ねながら、シオンが一人の人間として成長(再生)していく中で、グレイルに対する一途な想いの揺れ動く様が綿密に描かれていて、かなりの読み応え。
物語の佳境に入って、グレイルが凋落したばかりの頃のシオンに対してもっと親身になってやれたのではないかと悔やむけれど、ローレンシア王宮で政治利用するための傀儡としてわざと無知で傲慢なわがまま王子として放置されていた真実を知る由もなかったのだから、実際に対面していたまんまの愚かな王子のエリュシオンに、あれ以上の好意を持って配慮する気持ちになるのは無理だったんじゃないかな。グレイルに関してはむしろシオンを好きだと自覚してからの態度の方が、モヤッとしたり腹立たしく思ったりした。
個人的に気になったのは、シオンとは逆に本物の王子としてローレンシア王宮に入ったエリュシオンの方で、あちらはシオンのように肉体的に悲惨な目にあってはいないけれど、彼も政治に利用されるために人生をねじ曲げられた人物なので、大神殿に移住した後の人生が実のあるものになっていればいいな...という気持ちになった。
今まで読んだ六青みつみさんの作品の中で一番好きかも。



では、また!
浅葱 拝