きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

蒼空の絆 / かわい有美子(イラスト:稲荷家房之介)

[あらすじ]北の大国N連邦との対立が続く東宝グランツ帝国、その北部戦線を守る空軍北部第三飛行連隊――通称『雪の部隊』に所属するエーリヒ・ヴィクトル・フォン・シェーンブルクは、『雪の女王』として名が轟くエースパイロットであり、国家的英雄のひとりでもある。歴史ある旧王国名門貴族の末裔で圧倒的な美貌を誇るエーリヒは、厳しくはあるが部隊内の信頼も篤い、理想的な指揮官だった。そんなエーリヒの司令補佐官を務めるのは、幼少の頃よりエーリヒを慕う寡黙で忠実な男・アルフレート中尉。厳しい戦況の中、戦闘の合間のささやかで穏やかな日常を支えに、部隊の皆と共に生き残るために必死だったエーリヒだったが、ある日、激しい戦闘の中、利き腕の肘から先を失う怪我を負う。そんなエーリヒに対し、アルフレートはそれまで以上に献身的な忠誠を見せるが――?
電子書籍サイトの作品内容より)

[感想]

高潔な人×忠誠の人×ブロマンス

敗戦濃厚な戦時下の軍人(パイロット)を主人公に、骨組みのしっかりした小説を硬質な文体で書き上げていて、世界観が素晴らしく好み。
その上、登場するキャラクターの属性や関係性も魅力的で、ひとことで言うとめちゃくちゃ萌えた...!

特に元貴族で国への忠誠を胸に軍人として高潔な魂を抱いているエーリヒと、そんなエーリヒに忠誠を尽くすアルフレートの関係性がたまらない。
一度だけ言葉を交わした幼少期は、領地の保養地に赴いた貴族の若君と村の子供、士官になり同じ空軍部隊に配属されてからはエース・パイロットと補佐官、エーリヒが隻腕になり作戦技術部参謀となってからは参謀と参謀副官...と、エーリヒへの忠義で道を歩んできたアルフレートの忠誠心が二人の関係性の礎となっているのがひたすら萌える。
命を救うやり取りだった幼少の出来事が、たった一度の接触だったというところも尊い

序盤、エーリヒとアルフレートが2人で湖畔にピクニックに行くエピソードでは、エーリヒが”上官としての感情”以上のものをアルフレートに抱いていることがはっきりと見て取れてにんまりするけれど、それ以外の部分で上官とその補佐という関係でありながら、エーリヒが唯一、気を緩めることができるのがアルフレートと2人のとき、というのが時折伺えるのも萌ポイントが高い。

忠誠は我が母国と皇帝陛下、そしてあなたに

エーリヒが隻腕になり、空軍の北部部隊基地から首都に移ってからは、当て馬的存在が登場して、よりBLらしい展開になるけれど、その展開にエーリヒの国への危惧と忠誠心を絡めているのがとても上手い。

国を守りたいという矜持のために情報部の従兄弟に自らの身体を差し出そうとしたエーリヒに対し、どこまでもエーリヒの高潔さを優先してきたアルフレートが怒りをあらわにするところからの展開は、まさにBLの本領発揮という感じ。
2度目に身体を重ねる前に、「恋人のように」と願って2人でダンスを踊ったり歌を一節歌うところは、本当に甘やかで素敵だった。
個人的には危険な任務を前にしたエーリヒから、別離の意味を込めて「ヴァイオリンを託したい」と言われたアルフレートが「・・・信じられないことを、平気でおっしゃる」と返すところが最高に萌えました。
最後の最後までアルフレートは敬語を崩さないんだよね...それが猛烈に萌えだったわ。


サン・ルー共和国へ親書を運ぶために戦闘機に乗ってからの展開の運びは駆け足気味だけれど、取って付けたような軍人設定ではなく、エーリヒもアルフレートも国への忠誠を抱く軍人としての矜持で最後まで行動するのがとにかく格好いいし、BLはブロマンスから甘々まで堪能でき、納得の出来栄えの小説です。
hontoの限定おまけ「白い軌跡」(本編後、一緒に暮らしている2人の様子と空軍士官学校でのあるひととき)も、余韻を残した美しい物語になっていて、大満足。


かわい有美子さんは量産型の執筆スタイルではないので、新作が待ち遠しいですね。


では、また!
浅葱 拝