きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

ロッカバイディア / 暮田マキネ

[あらすじ]
「俺にできることは全部叶えてやりたいから」大病院の次男坊で、奔放に日々を過ごす八尋(やひろ)。そんな八尋にとって大切なのは、幼馴染みの累(るい)だけ――。養子という立場に引け目を感じている累に、自分にだけは甘えていいと教え込んできた。そうして幼い日を過ごした二人はやがて、身体を重ね始める。曖昧なバランスで保たれていた関係だけれど、義母の妊娠を機に突然、累が「終わり」を口にして!?
電子書籍サイトの作品内容より)

両片想いと共依存の間で相手を想う

「欲しいものを欲しいだけ全部あげる」という思いを抱いて幼馴染の累を大切にしてきた八尋と、「望むことは罪だ」という思いを持ちながら八尋の優しさは「慰めで支え」だと縋っている累のすれ違う想いが痛々しい。
どちらも子どもの頃から唯一の存在だったことは確かなのに、純粋な友情と呼ぶにはそこに絡まる感情は複雑で、どんどん友情の枠からは外れていく気持ちに流される行動が、微妙な均衡を保っていた関係をさらに不安定なものにしていく様子が丁寧に描写されていてとても良い。

虐待されていた子どもが、引き取られた先の愛情深い家族の期待を裏切らないように、と優等生で居続けようとする思いが強くて...というのは(虐待児童の抱える心の傷の広範的なテーマの一つとはいえ)正直病みBLの題材として取り上げられ易くありがちだし、ストーリー自体にメリハリが少ないために、累と八尋の心情にばっかり注視して描いているので若干グダグダしている印象があるけれど、そのグダグダとした澱んだ流れの悪さが、彼らの感じているもどかしさなんだろうなぁと思う。

暮田さんのちびキャラはカワイイの極みなだけに、可愛さに比例した健気さが真っ直ぐに突き刺さって、現在と交互に挟み込まれる子ども時代のエピソードは泣ける。
そして高校生になった現在、心の奥にしまっていた気持ちをようやく養母に告げることが出来て「おかあさん・・・っ」って泣く累に泣かされた。
あそこで累の気持ちが、保科家の本物の家族になれて本当に良かった。

累はどれだけ優等生であっても、家族に大切にされていても、自己評価が低くて終始、不安定な気持ちの上で一人でぐるぐると苦しんでいて、そういう思い悩むうじうじ系の受けは行き過ぎるとうざいけれどw、この累の気持ちの描き方は良かったかな。


独占欲も、執着も、不安定さも、仄かな闇を孕んでいるけれど、破滅に向かうほどの凶悪な共依存にまでは行きつかない闇...という匙加減が暮田マキネさんらしい作品で好きです。

では、また!
浅葱 拝