きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

3番線のカンパネルラ / 京山あつき

[あらすじ]次に深手を負ったら、致死量か?終わりの来ない、恋がしたい。ちょっとズレてる真面目な上司×ヨロめきやすい傷心の寂しがりBL。相思相愛と信じて疑わなかった彼氏に突然フラれ、ショックで無気力ぎみな加納。ひとりで生きるのは無理。でも、つかの間の恋をするなんて、もっと怖い。なのに駅で助けてくれた高校生にはときめくし、職場の店長にもグラついてきてしまう始末…。ただ好きな人と、ずっと一緒にいたい。それだけのことが、どうしてこんなにも難しいのだろう?行き先の知れぬ列車と心に揺られながら、「生きる」と「恋する」をさまよう各駅停車のトリップ・ラブ。(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

死にたかったわけじゃないけれどいつか積もり積もってフラッとした時に...

恋愛に傷ついて、人生に悩んで、孤独に耐えて、そういうこと全部ひっくるめて平気なフリをして毎日仕事して、それでも生きていかなければならないことに対するぼんやりとした不安というか焦燥感というか寂寥感というか...そういうものを抱えている加納の感情にすごく共感させられる。
リアルな苦悩なんだけど、作者がこれみよがしにテーマをひけらかして押しつける感じはなくて、フラットな視線で淡々と描いていて、そのことが逆に読み手の気持ちを惹きつけてる感じ......すごくいい✨

僕はなんてたやすくヨロめく人間なんだろう

加納は基本うじうじ後ろ向き思考で閉じこもって、自己嫌悪と自己憐憫でグルグル巻きなんだけど、電車で出会う高校生のカンパネルラくんの純粋な好意(親切)に日常のちょっとしたやる気や憩いを見い出したり、店長のちょっとした態度にパッと気分を上昇させたり、色んな意味で確かにたやすい。
だけどそれを自覚してるからこそ、簡単に惹かれてしまう気持ちを自制しようとしても、バックヤードで店長とやりとりをしながら「あぁ、僕のこういうところなんだよなぁ...」って、とっくに店長のことを好きになってる自分にちょっとため息を吐きそうになる感じに萌えがつまってる。
”好き”とか”ときめく”って気持ちの振り幅がすごく乙女なんだよね、加納って。でも不思議とうざい感じではないっていう...なんだろ、じめっとしてるのにさらっとした手触りみたいな...。


人生って色んな出来事の始まりと終わりが連結されて続いていて、その中に人との出会いと別れもあって、上手くいくこともいかないこともあって......そういう浮き沈みを加納という人物の人生の一部分にフォーカスを当てて見せてくれた感じ。
そのフォーカスを店長に当てれば、店長には店長の平坦ではない人生の物語があり、カンパネルラくんに当てればあんなに真っ直ぐで明るい感じの彼にだって、悩みや喜びや疲れがあるんだろうと思う。

彼にフラれて自分の全てがダメで否定された気分になって、無気力に生きてきた加納が、カンパネルラくんと出会い、自分のことを見つめ直して幽霊のようだった自分と決別して「生きる」って決めて人生に戻っていく様が、「銀河鉄道の夜」のジョバンニをなぞらえてるようでもあり......その先にも人生が続いていく余韻に優しい光を感じさせる終わり方だったのも良かったです。
カンパネルラくんに「ありがとう」って伝えた後の電車内で、本当に感謝しています、からの加納のモノローグが、深く心に染みるような漫画でした(*´ω’*)



では、また !
浅葱 拝