きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

掌の花 / 宮緒葵(イラスト:座裏屋蘭丸)

[あらすじ]エリート弁護士・宇都木聡介の元に依頼人として現れたのは、高校時代の元同級生で、ネイリスト兼実業家の黒塚菖蒲。相続トラブルを抱えた菖蒲のために、聡介はしばらく彼の家に同居することになる。華道の家元の息子で絶世の美少年だった菖蒲とは、かつて身体を慰め合った仲だった。大人になっても壮絶な色気を含んだ菖蒲の手は、爪先を朱色に染めて淫靡に聡介の身体を求めてくる。戸惑いながらも愛撫を受け入れてしまう聡介。その執着は年月と供に肥大し、強い独占欲を孕んでいるとも知らずに――。電子限定書き下ろしSSを収録!!【イラスト付き】
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[感想]
「掌の檻」のスピンオフ。椿雪也の先輩でエリート弁護士の宇都木聡介のお話です。

10年ぶりの再会

宇都木と菖蒲が10年ぶりに再会するところから物語が始まるわけだけど、宇都木が菖蒲という存在を過剰なぐらい意識していて、最初っから頭の中で一人よろめきまくってるのが...もう何だろう......宇都木って「掌の檻」に登場していた部分だけの印象だと、攻め属性のキャラっぽさが見受けられたけれど、菖蒲が絡むよろめきっぷりは紛れもなく受け属性の動揺の仕方と色気で、その動揺を気取られないように本人は必死なんだけどダダ漏れてしまうもんだから......そういうのに気づく者を少し加虐的な気持ちにさせる人だな...と。
そりゃあ菖蒲のような人間が執着を抱くのも然もありなん。
キャラ作りが上手いなぁ。

高校時代、甘く痺れるような関係を持っていたのに、ある出来事がきっかけになって、宇都木の勘違い(思い違い)からすれ違ったまま音信不通になったので、宇都木の中にずっと菖蒲への燻る思いがあった...その上に、菖蒲の存在=菖蒲の指に翻弄される甘い性的な思い出な部分があって、それを宇都木は10年間ずっと抱き続けていたんだと思うと、どんな方法で菖蒲が宇都木を追い込んでいくのかわからない序盤から、あぁこの人は堕ちるべくして堕ちるんだろうなぁ、ってわくわく感がすごい。

世界観の構成について思ったことをちょっと......(-ω-;)ウーン

頭の中の思い出にしか存在しなかった菖蒲が、宇都木の日常の中に妖しく存在感を増していく過程を、菖蒲の御家問題(華道宗家の跡取り問題)と絡めて進めていくのも、小説の空気をドロっとした陰湿さと嫌らしさで後押ししてるみたいに効いてる。

ただ途中の展開で、宇都木の叔父が出てきて、それがちょっと独特のキャラの非現実的なボディガードエピだったので、息苦しくのめり込ませるような現実的な世界が、唐突に非現実なエンタメを放り込まれて壊された感がすごくて......。
御家騒動に巻き込まれた宇都木に危機が及ぶエピが必要だったとしても、ちょっとあのキャラを入れた構成の意図がわからなかった...のは私の読解力❔に問題ありなの...か......(-ω-;)ウーン❔
私としては、現実味のある生活が攻めの執着に侵食されて非日常に転じていくことを、この小説の最大の醍醐味として生かすのが大切だったんじゃないかなぁと思うので、あの特殊部隊のようなボディガードの仕事をしている叔父の存在(しかもオネエ系?)は、小説の世界観を茶化すような別の非日常感で「掌の花」の凝縮濃厚の世界を散漫にさせてしまったと思う。

「掌の檻」と「掌の花」

「掌の檻」の執着攻め雪也は、高校生の時に数馬と出会って別れて異様な執着心を抱いた感情的な人間臭さがあったけれど、この「掌の花」の菖蒲は、幼少の頃から既に人格破綻のサイコパス...。そのサイコパスの気質が、ウツギの木の下で宇都木と出逢い、満開に花開くことになったという......業を感じさせる狂気...いいねぇ。

「掌の檻」と「掌の花」は美貌の青年の執着攻めという共通のテーマで描かれているけれど、あとがきで宮緒葵さんも語られていたように、「掌の檻」は受けが攻め以外を選ぶ余地をなくしていく執着攻めで、「掌の花」は受けが多くの選択肢の中から自らの意思で攻めを選ばせるという執着攻めなんですよね。
この対比を楽しむ意味でも「掌の檻」と「掌の花」の両方を読むのがオススメです❗️


では、また !
浅葱 拝


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