きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

そらのいとしい旦那さま / 野原滋(イラスト:サマミヤアカザ)

[あらすじ]双子の姉の身代わりとして隼瀬浦領主の長男・三雲高虎に嫁いだ空良。名前もなかった自分に「空良」と名づけ、男でも厭わず溺愛してくれる夫とともに穏やかな日々を送っていたが、高虎の父、現領主の時貞から、世継ぎのために高虎に女の正室を迎えるよう説得して欲しいと告げられてしまう。苦悩の末、空良が下した決断とは?電子限定書き下ろしSSを収録!!【イラスト付き】
f:id:BLnote:20191026231430p:plain

[感想]

2年半の幸せな日々と、浮上するお世継ぎ問題

前作より格段に仲睦まじくなって距離感が狭まった高虎と空良の様子に数年の時の流れを感じさせつつ、魁傑と次郎丸の掛け合いっぷりに変わらぬ日常を織り交ぜて心を和ませる始まりにホッとさせつつ、そこに新たな登場人物、孝之助と弥市が初っ端から登場。
立場が微妙な孝之助が不穏分子になるのかな...でも次郎丸との接し方を見ているととても良い坊ちゃんに思えるし...と今後の展開で悩みそうになるところで速攻、弥市が腹に一物を抱えている感を醸し出してくる。
弥市が高虎と空良にどんな風に絡んでくるのか心配になるのはもちろんのこと、空良には絶対つらく当たらないでよ...と思うんだけど、案の定、この野郎って感じで、空良に対して陰湿な雰囲気をぷんぷん振り撒いてくれちゃうわけで...。

空良の幸せ見守り隊の隊員としては、弥市の表面上の人となりと見え隠れする黒い部分の違和感に警戒心を抱きつつ、余計なことするなよ!って読み進めていたら、高虎のお世継ぎ問題に口を出すとかね...もうね、○ね!って思うわけです。

でも何よりもつらかったのは、弥市がお世継ぎ問題を口にして空良の心に不安の影を落としたあと。
詳しい事情を知らない城の下男が、空良の存在が邪魔になってるみたいな影口を叩いていて、それを聞いてしまった空良がより深く沈んだ気持ちになって、さらにお館様(高虎の父君)からも隼瀬浦のために...と正妻問題の話をふられるなんて...空良つらすぎるわ...。

高虎の一途な想いや曇りのない愛情をわかっているからこそ、心根が優しく本当に高虎を大切に想っている空良が、高虎のもとを離れようとする流れはテンプレだけど、空良が高虎に宛てて文をしたためる一連のシーンは...つらくて悲しいのに、空良の優しい気持ちが溢れていてグッときた。

後半は弥市の本当の目論みに巻き込まれた空良が、芯の強いところを見せて乗り越えるっていう展開で、新キャラの梟のふくにも見せ場があって、全体的に安定したストーリーの運びでした。

最大の山場...

私的には空良が身を引いて姿を消すことを決心したあとは、姿を消した空良と高虎のすれ違いとか、空良がどこかの地で高虎を想ってたった一人で暮らしてる様子とか、高虎が気も狂わんばかりに空良を探し回って...という不幸風味のラブロマンス展開で進めて欲しかった......というかそういうエピソードで”空良のことを想っている高虎”と”高虎のことを想っている空良”の心境をどっさり読みたかったです......。
弥市の目論見のエピを回収するために物語の最大の山場を展開していったところがね......ちょっと残念だったかなぁ。
前作に比べると空良と高虎の関係だけを描く物語ではないので、それを踏まえた上でこの構成にしたことはもちろんわかっているし、納得もするけれど...いちファンとしてはもう少し高虎と空良の感情に物語を寄せて欲しかった。

空良を男の伴侶として堂々と周辺各国に披露して、女性用の花嫁衣装を着て婚礼を行うのではなくて羽織袴の出立でっていうのは、空良が本当に認められている証拠で、良い終幕でした。空良の実父との和解も、空良自身は嬉しかったようだしね...。不安要素を綺麗にまとめ上げた感じ。
私はあの父親が空良の人生にしてきた仕打ちは一生忘れないし、許したくないけどね←w


前作は空良の健気さに一冊泣きっぱなしだったけれど、今回は手紙のところだけホロリとした感じ。
...良作だったけれど、うん、やっぱり総合するとちょっと物足りなかったかな。

ということで、二人の感情に寄り添った幸せで甘い日常話を読みたいので...再販された同人誌「そらと旦那さま」注文したよ✨
J庭行けなかった勢の救済ありがたや。・゚・(ノД`)・゚・。


では、また!
浅葱 拝


[感想] 📌前作の感想がこちらにあります。
blnote.hatenablog.jp