きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

はだける怪物 下 / おげれつたなか

[あらすじ]セフレだった秀那と林田は、恋人同士になり、今は大阪と東京での遠距離恋愛中。秀那は大阪で、偶然林田の元カレ・弓と出会う。弓は、かつて林田が暴力を振るっていた相手で、今も林田の部屋の壁に貼られた写真のひとだった。そしてある時、秀那は弓の体に未だ残る、林田の暴力の痕を見てしまい……。『怪物』だった林田と、彼を好きになってしまった秀那。「好き」だけで終われない、いびつなふたりの物語、いよいよ完結。
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[感想]
がっかりすぎる。
正直なんのカタルシスもなく、エロだけ充実してた。この下巻で私の中で「はだける怪物」という作品がただエロ漫画だったという着地点に降りてしまってがっかり。

上巻で『はだける怪物』前日譚「薊」を収録した特装版を読んでいると、林田の中にある弓との思い出というのは、それまでの自分の世界がすべてが破壊され、無数の棘となって自身を蝕み腐食してしまった自己世界でもあるのに、今回の完結において、「弓に暴力を振るっていた」という事実にだけある種の気持ちの整理がついたって、それは林田の表面を均しただけのことじゃないの?
林田自身が破壊された自分の過去をどういう気持ちで振り返って受け入れたのか、何も描かれてなくて、何もわからなかった。
まさか秀那が「好きだから支えたいんだ」って言ったあの公園のシーンで、あの悲惨な過去のすべてを受け入れられたの?
それとも林田にとっては弓に暴力を振るっていたという事実だけが自分の負い目であり、戒めだったの?だとしたら前日譚「薊」を入れた特装版を出す必要なかったんじゃないの?

下巻の秀那の存在は、弓と林田のただの連絡係で、物語の狂言回しで、あとはエロを貪ってただけ。
秀那が林田に「どれだけ俺を振り回せば気が済むんだ」って言ってたけど、自分から弓に接触して行って、林田と弓のことでわたわた混乱して、頭の中で空回りして態度に出してただけだよね。むしろそんな不自然な態度の秀那に林田が困惑してたのに...何言ってんだ感。
上巻の時も思っていたけれど、秀那って自分本位の馬鹿だよね。

正直、エロに特化していて奇天烈キャラでギャグに寄ってる「ヤリチン☆ビッチ部」の方が、まだそれぞれのキャラにもエピにもカタルシスがあるわ。って思うぐらい、この下巻には何もなかった。
下巻で唯一、印象に残るのが過去の弓と林田のシーンで、現在も弓の出ているシーンだけしか心に残らないって、なんのための下巻だったんだろう。

追記:
林田が笑えるようになったと知って、弓が気持ちを整理できたのは良かったけどね。
でも、この「はだける怪物」は弓の物語じゃないし、弓は自分が暴力を受けていた時期に、林田がどんなに境遇にいたのか知らないからね。
だから弓と林田は離れなければならなくなった訳だし。
だからこそ、弓と同じく林田の過去を知らない秀那(との出会い)が、林田にあの過去を乗り越えさせたんだとしたらすごいカタルシスだったんじゃないの。


では、また!
浅葱 拝