きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

ロイヤル・シークレット / ライラ・ペース(訳:一瀬麻利・イラスト: yoco)

[あらすじ]ニュース配信社の記者、ベンジャミンは、英国の次期国王ジェイムス皇太子を取材するためケニアにやってきた。滞在先のホテルの中庭で出会ったのは、あろうことかジェイムスその人だった。雨が上がるまでの時間つぶしに、ベンの部屋のテラスでチェスを始めた二人は、駒を取られるたびに一つ秘密を打ち明ける取り決めをする。それは軽いゲームのはずだった。しかしいつのまにか二人の間に不思議な感覚が通い始め――。世界で一番秘密の恋が、いま始まる。(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

内容的にもページ数のボリューム的にも読み応えたっぷりのメンズラブ。

第1章の走り出しがとても魅力的。チェスのゲームに自分の内なる秘密を明け渡す駆け引きを乗せて始まる関係が、非日常の中だったからこそ衝動に走った肉体関係に結びつくというのがドラマチックで色気がある。ここで記者のベンジャミンの物事に対するバランス感覚が見て取れるのも、先を読み進めるためのキャラクターの指針となっているのがうまい。

第2章から舞台をロンドンに移して、本格的な物語が展開されていくわけだけれど、皇太子の王位継承問題や王室のしがらみを背景に逢瀬を重ねていく2人が、線引きのできる割り切った関係だと思って肉体関係を重ねていきながら、実際には恋慕や相手に対する思いやりを募らせていく様がとても良い。
特に終盤、ベンのアパートメントのベッドの上で服を着たまま微睡むところは、それまで感情の動きは描写されていても繊細な叙情さはなかった作品の中で、初めて秘められた愛情の優しさとせつなさがにじみ出てくるところを美しく描写していたと思う。萌えです。
出逢いからあそこに至るまでの過程で、相手に魅かれていく気持ちとそれを制する心の動きを一直線の転換にしなかったところに、この作品の構成力の高さを感じます。
あと、同僚に指摘されるコーギーの毛の不意打ちのくだりが巧い。

セックス部分はとても即物的で情緒はないw

海外BL小説ってBLファンタジーの世界ではなくリアリティ・ドラマなんだろうなという感じで、日本のBL小説の濡れ場のように感情表現に比重は置かれておらず、セックスするという事実がそこにあるという現実感で占められている。
時折、攻めになる方が「そんなキャラクターの片鱗どこにもなかったよね??」というレベルのキャラ変で、支配的なセックスを命令口調で相手に強いることに違和感を感じたけれど、ああいう雄みの出し方もリアリティ寄りなんだろうか。それとも海外BL小説の暗黙の了解的なセオリーだったりするのかな??海外BL作品に明るくないのでそこら辺は謎でした...w

小説として

海外BL小説はライトノベルズ系の並びにはない文学小説の構成で編集されているのを強く感じた。
ただ、ところどころ文章の繋ぎの粗さ(荒さ)があり(翻訳の問題ではなく海外文学特有の文章のリズムの違和感かもしれない)、作家が書きたいと思っている部分がわかりやすく冗長で、中盤やや中だるみ的な展開をしているのは少しだけ残念。

ラストの第9章はクロージングまで章まるごと最も綺麗なまとまり方をしていて、あそこであの一文で終わらせるところにこの作家のセンスを感じる。
(もしかすると続編ありきの前提での出版だったのかもしれないけれど...物語の始め方と閉じ方に感性が光ってた。)

続編があるらしいのでこの先の2人を追えるのはいいけれど、本作以上に現実味のある内容になると予想されるので、リアリティとロマンスのバランスがちょっと心配かな。



この「ロイヤル・シークレット」がBLとしても小説としても良作だったので、海外BL小説を少し開拓してみようかなと思ったけれど...作家や翻訳者の特徴が全然わからないので何を選べばいのかまったくわかんないわ...。


では、また!
浅葱 拝