きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

烈火の血族 / 夜光花(イラスト:奈良千春)

[あらすじ]十八歳になったマホロは、ある使命──失踪したジークフリートボールドウィンの手がかりを得るため、ローエン士官学校に入学した。ローエン士官学校はこの国唯一の魔法を学べるエリート士官学校として知られている。そこで、マホロは名門セント・ジョーンズ家の子息ノアと知り合う。学生に絶大な人気を誇り、親衛隊まで持ちながら、ノアが唯一興味を示すのは、落ちこぼれのマホロだった。ノアによれば、直感がマホロを手に入れろと言うらしい。平穏なはずの学校生活に、嵐が吹き荒れる!?魔法にドラゴン、秘密が絡まり合う壮大な恋と闘いの物語、開幕!!(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

壮大なファンタジーの幕開け

封切られた物語の序章という1冊で、このシリーズの本筋に絡んでくる登場人物達の人間性や特質をお披露目しつつ、壮大な世界観への導入を行っている。
魔法、五名家、士官学校、魔法石、賢者の石、闇と光の血族...等々、キーワードとなる要素が盛り沢山なのに雑然とした印象はなく、流れるように読み進めることができる。
夜光花さんの新ファンタジーシリーズ始動は、この先に待ち受けている壮大な物語に対する期待感を煽られるワクワクし通しの1冊でした。

キャラクターの魅力も満載

自信家で毒舌で俺様な攻めのノアのキャラクターがユニーク。俺様キャラはあまり萌えない質なんだけど、正統派攻めじゃない勢いがおもしろくて好きだ。ノアの“自分にブレず他に迎合しない自我の強さ”が、この壮大なストーリーを駆け抜けるのはピッタリという印象。まだ能力的には隠されている部分もあり、そこが明かされるのも楽しみだし、貞操魔法壁で守られてるマホロとの合体がいつ達成されるのかも楽しみw
マホロの小動物っぽいところとアルビノのように真っ白なビジュアルも好き。これまでの自分の人生を覆すような事態に陥り、自分が何者なのかすらわからない状態におかれても、いつまでもウジウジ悩むような卑屈さがないところがいい。チワワのようにブルブル震える気持ちでいたとしても、決して弱くないので好感を持つ。

ノアの別荘に集合したメンツがこのシリーズの主要キャラクターになると思うけれど、正統派キャラのレオンやノアの補佐的存在のテオもいいけれど、立ち位置的に埋もれてしまいそうなオスカーに活躍の場はあるのか...期待してます。
四賢者の一人という校長がいまいちすごい人物とは感じられなかったことは残念。

マホロという人物にはまだまだ謎がたくさんあるし、それ以上にジークフリートという人物は謎謎アンド謎に包まれているので、今の段階ではジークフリートがマホロに向ける執着は神国トリニティのための道具としてなのか、それとも歪んだ愛のような何かを持っているからなのか...まだはっきりしないので、この先が非常に気になるところ。

奈良千春さんのイラストはキャラクターのイメージを魅力的に膨らませてて眼福。特にマホロの頭の上で震えるアルビオンの図、可愛かったですw

質問。一人の人間の命で千人の命が救われるとしたら、一人の命を奪えるか?

今後のシビアな展開を予感させるこの質問は、ノアからマホロに問いかけられ、2人が抱える愛に関する意識を定かにしたけれど、闇の勢力に対抗する側に立った時、おそらく”正”と”義”を貫こうとする全員に重くのし掛かってくる哲学だなぁ。
ノアにとっては「一人の命=愛する人」という考え方だったけれど、「一人の命」に感じる愛が、親愛だったり友愛だったり情愛だったり、その「一人の命」にどんな愛を感じるかは各人各様なわけで...。闇魔法の軍団と闘う仲間としての意識が強い人間ほど、選択する命を前にした時、苦しみを抱えるんだろうなぁと思う。
そういえば最後、ノアの別荘に集合したメンツの中に魔法の能力的には戦力になりそうにないザックがいたけれど、マホロの初めての友達ということでジークフリートの標的にされそうで心配だわ...。

あとがきで

雰囲気で書いちゃうところがあると綴っておられましたが、この「烈火の血族」は創造性と文章力の均整がとれていて、小説として上滑りするところがほとんどなく完成度が高いです。
私事ですが文芸小説編集部のジョブ・ローテで、SF/ファンタジー編集部に居たことがありますが、プロットの読み込みからゲラの校正までがひときわ大変だったのがファンタジーの編集だったので、あとがきを見て、担当編集の方の力量にも敬服です。
夜光花さんのもう一つのファンタジー「少年は神シリーズ」もSHYノベルズだったけれど、ファンタジーを専門にしてた編集者の方がいるんだろうか。


小説として、ファンタジーとして、個人的に圧倒的好みの作品で面白かったです。
濃厚にBがLする展開はまだもう少し先かな?
次巻がとーっても楽しみです!

では、また!
浅葱 拝