きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

「愛しのいばら姫」 凪良ゆう(イラスト:湖水きよ)

[あらすじ]トップモデルの美山は、母に顧みられず育ったため自身の美貌を商品としか思えない。世間の評価とは裏腹に空っぽな自分──過去の恋人の裏切りで、その思いは一際強くなった。愛されることを諦めた方が楽で、毒舌は鎧なのだ。けれど、新鋭デザイナーの久保田は、そんな美山をおおらかに受け止めてくれる。いつしか彼の優しさが染み入って、心の奥底で眠る感情を目覚めさせ……。(電子書籍サイトの作品内容から)
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[感想]
365+1のスピンオフです。

こんな美形見たことない。ーーーおまえ、ほんと綺麗だね。

「365+1」のモードフェスで出逢ったデザイナーの久保田と美貌のモデル美山のその後は、久保田が美山を構い倒していたw
美山の美しさにデザイナーとしての感性を触発される久保田。美しさだけでなく、しばしば美山のプロ意識にもあてられて凹まされるけれど、一緒に居るのを楽しんでいて、事あるごとに世話を焼いたり出掛けたり。
久保田の美山への接し方は、世話焼きオカンというよりは兄貴気質っぽいかな。年下の弟とか後輩がかわいくて仕方なくてかまっちゃうって感じ(美山は後輩じゃないけど)。美山靫彦はしっかりしていて自分よりもプロとして成功しているしプロ意識も最上だけど、そんなモデルの部分と、それ以外の部分にも久保田は目を向けていて、全部ひっくるめて美山を気に入ってる感じがいい。

ひとりで生きていくために必要なものは愛じゃない。

美貌のカリスマモデル美山の辛辣で攻撃的な性格の形成に大きく影響したのは、ロシア人の母親の半ネグレクトと、本気で恋愛していた恋人の裏切り。自分の価値は「モデルの美山靱彦」だからモデルとしてプロフェッショナルでいるための努力は惜しまないけれど、それ以外には関心がなくて、日常生活に労力を費やさない。頭のてっぺんからつま先まで全部が商品である「美山靱彦」で生きているだけ。
誰かから嫌われるのも好かれるのも自分には関係ないことーーーそんな風に思っているみたいな美山の気持ちが、「365+1」から通して唯一と言ってもいい友人の紺と綾野と、そこに久保田が関わってきてからの変化の行方がこの小説の醍醐味✨かな。

本人ですらわかってない魅力を引き出すデザイナーとかすげえ格好いいよな。

久保田は自分自身とデザイナーという職業を切り離しているわけじゃないから、かなり早い段階で久保田が美山に向けてた気持ちがこれって、最初の方から久保田は美山に特別な感情を抱いていたよね 〜。まぁ、「口説かないよう努力する」って、口説いてるようなもんだし。
美山にとって久保田は紺と綾野の知り合いでしかなかったのに、なぜか今までの誰とも違う距離感にウザさを感じたり戸惑ったりするよりも、無意識に居心地の良さを感じてしまう
請求書探しから始まって、週末の外食、味噌汁を作ってあげたり漢方薬をもらったり、花火大会の露店に寄ってリンゴ飴を食べたり。熱が出て看病してもらって、久保田の実家にお盆帰りして...ツンとしている割に、早々と久保田に気を許してしまっているように見えるのは、久保田の”人たらし”な性格ゆえか?
気がついた時にはすでにしていた✨っていう感じの柔らかさが、久保田が作るカメリアの花に埋もれるみたいに美山を侵食しているんだよねー(*´Д`*) 萌えーー❤︎

ワケありな相手がいる。

美山を捨てたという元彼が二人の関係を拗らせる存在で登場するのかと思いきや、登場しても即退場。しかもインターフォン越しってとんだ噛ませ犬だったw
美山にとってワケありな真打は、美山が16歳の時に保護者という名目で恋人だったアパレルメーカーのオーナー灰原の存在だった。業界に顔のきく大物っ ! これは久保田の仕事潰しとかあるかーっ ? ! と波乱の予感でちょっとワクワクしたけれど、実際のところは久保田の仕事と引き換えに美山を攫っていったけど、それは一時的なこと。そもそも仕事にプライベートを持ち込む気はなかったし、美山の意思はずっと尊重してたので修羅場っぽいものはなし。正直なところ、迎えにきた久保田とのやり取りは呆気ない幕切れだったかなぁ。
また久保田の方には幼馴染みで恋愛に発展させることができなかった失恋相手の里江の存在が。こちらは中盤から登場して存在がうざかった。和解らしきことになった後でもああいう女は鬱陶しい。好感度マイナスという珍しいキャラですw



スピンオフ元「365+1」は主役の二人が離れ離れの中で人生と恋愛に苦悩している様子がメインに描かれていたのに対して、こちらはそばにいて一緒に行動して、会話もいっぱいでBL的なダイレクトな萌えは倍々増
久保田と美山が友人でもなく恋人でもない関係でわちゃわちゃしているところとか、美山が久保田への気持ちを自覚してからの一途さとか嫉妬とか諦めとかの片想い状態は萌える !
久保田といると自分自身ですら知らなかった”素の自分”がどんどん成長していく美山が、忘れていた母親との優しい記憶を思い出したり、今まで関心のなかったことに興味が湧き上がってきて、強がりではない意志の強さで本当の意味で人生を歩み出す物語に、いい感じで恋愛要素を盛り込んでる。締めもアパレル業界を舞台にしているだけに華やかなフィナーレを迎えてハッピーエンド !

でも久保田と美山の会話がさ...久保田の”人たらし感”を出すために会話が多いのかもしれないけど、高校生っぽい底の浅さが目立つんだよね。もしかすると、中学・高校生活を経験したことのない美山に、久保田との交流を通して追体験させてるのかなぁ ? ? ?
凪良ゆうさんの作品にしては登場人物が関係を深めていくための手段としての会話が幼稚だったと思う。
う〜ん、久保田のノリがどうしても好きになれなかったんだよね。久保田は厳しい業界でブランドを立ち上げて代表として酸いも甘いも嚙み分けてきたのに、そういう芯の部分が見えなかった。だから美山が久保田を”人たらし”と評したの部分も受け取れなくて、久保田の魅力を感じられなかったわ(;´д`)トホホ…
全体的に小説としてはつまらないわけじゃないけれど...フィーリングは合わなかったってところかなぁ。
凪良ゆうさん好きだからちょっと残念。


スピンオフ元「365+1」の感想はこちら✨
blnote.hatenablog.jp

ではまた!
浅葱 拝