きょう、このBL本、読んだ。

商業BL本(漫画・小説)の感想。ネタバレあり。某文芸編集部編集者/小説編集者歴7年目(+校正者歴3年)。

キスしちゃダメなの? / 風呂前有

[あらすじ]赤毛にそばかすがコンプレックスな超純情ピュアピュア童貞DK・太郎は、自分と同じく『ハーフなのに英語が苦手』な転入生・瑠威に親近感を抱き、仲良くなる。だが瑠威からのスキンシップは、太郎が思う『友達同士』を越えるほど過剰で甘くて、毎日ドキドキさせられっぱなし――!友達って、キスしていいの……!? これって恋なの!? 何なの―――???バルで働く大人たちのスリリングな濃厚3Pスピンオフも同時収録!!電子限定おまけ付き!!
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[感想]

胸ドキ感いっぱい

ラテン系イケメン転校生×赤毛そばかすグリーンeyeのハーフ高校生同士の、甘くて胸ドキ感いっぱいの友情&恋模様なんだけど、超ウブで純朴な太郎に、瑠威くんはナチュラルにちゅっちゅ💋しすぎw ...優しげで品行方正に見えても侮れぬタラシ習性...さすがラティーノ

太郎は見た目も性格も高校生にしては幼すぎるような気がするけれど、瑠威くんの格好良さにドキドキする感じも、空回ったりジタバタしたりする様子も、あざとい感じよりは初々しい感じ ? で、かなりのピュアっ子受けだった。

太郎と仲の良いモブ同級生2人もクラスメイト達にも、嫌味な人物は登場しないから、全体的に優しい世界。
...なので両想いになった途端に、”甘酸っぱい青春”から”思春期らしい性春”にあっという間にギアチェンジして、教室でおっぱじめたの(挿入は未遂だったけどフ○ラ完遂w)、ちょっと予想外の展開でしたw

初めてのデートで、太郎が小さな弟を連れてきた時の瑠威くんの態度は、いろんな国出身の大家族の一員として生活してきた家族想いの優しさがすごく自然んで、ああいう瑠威くんを垣間見れてよかった(*´ω`*)ホッコリ。
瑠威くんは大人っぽいところと子供っぽいところが混ざり合ってて、ちょっと不思議なキャラだったなぁ。

番外編

瑠威くんの叔父さんのサイドストーリーが番外編として収録されてて、レストランの従業員のアーロンとステファン×叔父さんの3Pです。
本編にこの3人が出てきたとき、アーロンとステファンがカップルだったりして?とか思ってたんだけど、まさかの叔父さん受け3Pとはw


では、また !
浅葱 拝

掌の花 / 宮緒葵(イラスト:座裏屋蘭丸)

[あらすじ]エリート弁護士・宇都木聡介の元に依頼人として現れたのは、高校時代の元同級生で、ネイリスト兼実業家の黒塚菖蒲。相続トラブルを抱えた菖蒲のために、聡介はしばらく彼の家に同居することになる。華道の家元の息子で絶世の美少年だった菖蒲とは、かつて身体を慰め合った仲だった。大人になっても壮絶な色気を含んだ菖蒲の手は、爪先を朱色に染めて淫靡に聡介の身体を求めてくる。戸惑いながらも愛撫を受け入れてしまう聡介。その執着は年月と供に肥大し、強い独占欲を孕んでいるとも知らずに――。電子限定書き下ろしSSを収録!!【イラスト付き】
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[感想]
「掌の檻」のスピンオフ。椿雪也の先輩でエリート弁護士の宇都木聡介のお話です。

10年ぶりの再会

宇都木と菖蒲が10年ぶりに再会するところから物語が始まるわけだけど、宇都木が菖蒲という存在を過剰なぐらい意識していて、最初っから頭の中で一人よろめきまくってるのが...もう何だろう......宇都木って「掌の檻」に登場していた部分だけの印象だと、攻め属性のキャラっぽさが見受けられたけれど、菖蒲が絡むよろめきっぷりは紛れもなく受け属性の動揺の仕方と色気で、その動揺を気取られないように本人は必死なんだけどダダ漏れてしまうもんだから......そういうのに気づく者を少し加虐的な気持ちにさせる人だな...と。
そりゃあ菖蒲のような人間が執着を抱くのも然もありなん。
キャラ作りが上手いなぁ。

高校時代、甘く痺れるような関係を持っていたのに、ある出来事がきっかけになって、宇都木の勘違い(思い違い)からすれ違ったまま音信不通になったので、宇都木の中にずっと菖蒲への燻る思いがあった...その上に、菖蒲の存在=菖蒲の指に翻弄される甘い性的な思い出な部分があって、それを宇都木は10年間ずっと抱き続けていたんだと思うと、どんな方法で菖蒲が宇都木を追い込んでいくのかわからない序盤から、あぁこの人は堕ちるべくして堕ちるんだろうなぁ、ってわくわく感がすごい。

世界観の構成について思ったことをちょっと......(-ω-;)ウーン

頭の中の思い出にしか存在しなかった菖蒲が、宇都木の日常の中に妖しく存在感を増していく過程を、菖蒲の御家問題(華道宗家の跡取り問題)と絡めて進めていくのも、小説の空気をドロっとした陰湿さと嫌らしさで後押ししてるみたいに効いてる。

ただ途中の展開で、宇都木の叔父が出てきて、それがちょっと独特のキャラの非現実的なボディガードエピだったので、息苦しくのめり込ませるような現実的な世界が、唐突に非現実なエンタメを放り込まれて壊された感がすごくて......。
御家騒動に巻き込まれた宇都木に危機が及ぶエピが必要だったとしても、ちょっとあのキャラを入れた構成の意図がわからなかった...のは私の読解力❔に問題ありなの...か......(-ω-;)ウーン❔
私としては、現実味のある生活が攻めの執着に侵食されて非日常に転じていくことを、この小説の最大の醍醐味として生かすのが大切だったんじゃないかなぁと思うので、あの特殊部隊のようなボディガードの仕事をしている叔父の存在(しかもオネエ系?)は、小説の世界観を茶化すような別の非日常感で「掌の花」の凝縮濃厚の世界を散漫にさせてしまったと思う。

「掌の檻」と「掌の花」

「掌の檻」の執着攻め雪也は、高校生の時に数馬と出会って別れて異様な執着心を抱いた感情的な人間臭さがあったけれど、この「掌の花」の菖蒲は、幼少の頃から既に人格破綻のサイコパス...。そのサイコパスの気質が、ウツギの木の下で宇都木と出逢い、満開に花開くことになったという......業を感じさせる狂気...いいねぇ。

「掌の檻」と「掌の花」は美貌の青年の執着攻めという共通のテーマで描かれているけれど、あとがきで宮緒葵さんも語られていたように、「掌の檻」は受けが攻め以外を選ぶ余地をなくしていく執着攻めで、「掌の花」は受けが多くの選択肢の中から自らの意思で攻めを選ばせるという執着攻めなんですよね。
この対比を楽しむ意味でも「掌の檻」と「掌の花」の両方を読むのがオススメです❗️


では、また !
浅葱 拝


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掌の檻  / 宮緒葵(イラスト:座裏屋蘭丸)

[あらすじ]会社員の数馬は、ある日突然、友人にヤクザからの借金を肩代わりさせられ、激しい取立てにあうようになった。心身ともに追い込まれた状態で友人を探す中、数馬はかつて互いの体を慰め合っていたこともある美貌の同級生・雪也と再会する。当時儚げで劣情をそそられるような美少年だった雪也は、精悍な男らしさと自信を身につけたやり手弁護士に成長していた。事情を知った雪也によってヤクザの取り立てから救われた数馬は、彼の家に居候することになる。過保護なほど心も体も甘やかされていく数馬だったが、次第に雪也の束縛はエスカレートしていき――。限定書き下ろしSSも収録!【イラスト付き】
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[感想]

蜘蛛の巣...

それなりに順風満帆で、生まれながらに勝ち組だと言われてきた数馬が突如、理不尽な状況に追い込まれ精神的に困窮していたところに、救いの手を差し伸べる高校時代の同級生雪也。美人画から抜け出してきたような美しい少年だった雪也が、凄味を増した美貌の青年弁護士として数馬の前に現れ、高校時代に特別な関係を持っていた数馬は当初、雪也に対して少なからず反発を覚えるんだけど...。
数馬の根が真っ直ぐな部分と、高校時代の罪悪感と自惚れ等々の感情から、雪也に反発する気持ちはすぐに消えて、数馬は雪也にあっさりと心を許してしまって...。

用意周到に張り巡らされた雪也の策略が単なる執着以上の狂気を孕んでいて、じわじわと数馬が侵食されていく様子がねっとりとした感触を感じさせて、「それは完全に罠...!」っていう展開が読んでてわかっても、じわじわと囲い込まれていく受けの様子がすごくいい。
押しつけられた借金に関する問題が解決されるまで...というきっかけで雪也と同居することにしたのに、気がついたら蜘蛛の巣にかかって糸に絡めとられて身動きできなくなって、どんどん実社会から雪也の作った檻に追い込まれていくいく数馬の様子は見もの。

執着と共依存

誰かひとりに執着することなく生きていた数馬が、高校時代、唯一溺れるように肉体的な交わりを持っていた雪也との関係は、お互いに執着を抱かせるものだったけれど、数馬は雪也の肉体と性行為に執着していて、それは思春期の性的欲求が勝ったものだったと思うんだよね。それでも、そんな風に誰かに執着するなんて自分じゃない、と恐れをなして一方的に雪也との距離を置いて別れたわけだけど、雪也の執着は思春期の錯覚とか青春時代の思い出なんていう軽やかなものじゃなく...。

好きなんて生易しい感情じゃなくて、「僕が君の一部だと認識されるくらいに尽くして、溶け合いたい」と狂気めいた告白をした雪也だけど、その発言よりも、距離を置いて存在を切りたいと思ってたなら「僕を殺すべきだった」って発言の方が常軌を逸していて狂気を感じた。狂気というか尋常ならざる執着かw

雪也が数馬との同居生活で、雪也の作ったものしか食べられなくなるように調教した上で、数馬とのセックス中に「僕を食べて」とか「美味しい?」とか「食べる前には綺麗にしないと」とか「お腹を空かせたらかわいそうだから」って中出ししたり、生命活動の根源である食事することをセックスすることに結びつける発言で強烈な刷り込みをするところなんて、どこまでも数馬を依存させることに徹底していて、雪也の病み具合がもの凄く素敵

単なる執着攻めの策略にかかって陥落させられる受けの話ではなくて、攻めの心に執着心を植え付けた理由が、愛されることを知らなかった攻めが唯一好きになった相手に切り捨てられた果てに、相手への執着を募らせると同時に自分自身の感情にも執着している感じ...なかなか感情的で感傷的なんだよねぇ〜。
それに気づいた受けがすべてをひっくるめて相手を受け入れて、自分の人生を明け渡すという共依存の檻エンドが見事にハマってたと思う。


宮緒葵さんの執着攻めはいつも徹底していて良いわー。
「渇仰シリーズ」もかなりの病み系執着攻めだと思ったけれど、あっちは攻めの犬っぷりにかなりの変態さが入ってて、キャラを丸ごと受け入れる度量が受けと読者にw 必要な気がするけれど、この掌シリーズの執着攻めキャラは私的に全部ツボ。

というわけで、”掌シリーズ”の「掌の花」も読了しているので、そちらもあとで感想を上げますヽ(*´∀`*)ノ

では、また !
浅葱 拝


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あの素晴らしい愛をもういちど  / 恋煩シビト

あの素晴らしい愛をもういちど 【電子限定特典付き】 / 恋煩シビト

[あらすじ]恋愛なんてピンとこない。友達と遊ぶ方が楽しいし、ネットのエッチ動画で充分満足。そんなイマドキの大学生・恵は友達に連れられて行ったゲイバーでバーテンの幸彦にひと目惚れしてしまう。初めて芽生えた感情、しかも相手は男性!自分の気持ちに戸惑いながらも必死で想いを伝える恵だったが、なぜか、幸彦の目に涙が―――…!?★単行本カバー下画像収録★【電子限定で描き下ろしの4ページ漫画が収録されています。】




[感想]
いつもの恋煩シビトさんっぽくないストレートな恋愛模様で、倒錯的で痛いシビトさんみを期待していると肩透かしかも ? 純粋な恋愛ストーリーです✨
恵がユキさんに対して目一杯の好意を一生懸命ぶつけながら、でも相手のことを気遣ったりして、初々しさとか純粋さが全部優しさに繋がっているみたいでいいわぁ。
ユキさんが元彼と再会して、洗練されてる元彼の薄っぺらさに気づいて「ダサいんだよ」って決別するところ、さらっと描かれてるけど好き。


ではまた !
浅葱 拝

30歳からのカミングアウト / 夏原サイケ

30歳からのカミングアウト / 夏原サイケ

[あらすじ]隠れゲイの充は30歳を迎えて一念発起☆地方から出て出会い系で処女喪失をと思ったら現れたのは綺麗系イケメンの遥!初体験なのにめちゃくちゃイカされてしまった充と充の痴態に惚れ込んだ遥は、お互い「はじめて」という勘違いを抱えたまま関係を続けることに…!人気シリーズ「30歳のカミングアウト」他、人気若手俳優×エロ顔をさらしてしまった真面目アナウンサーの「トロ顔」シリーズも収録! 【電子限定特典付き】




[感想]
ちょっと芋臭いというか古臭い絵がいい意味で”地方から出てきた”というキャラにぴったり。
お互いが自分たちの関係を勘違いをしたまま身体の関係はどんどん進んでいって…というBLでは割と鉄板ネタ。麗人UNOだからエロ特化なのはわかってし、たくさんあるエロ行為はちゃんとエロいんだけど、う〜ん、全然楽しめなかった !
後半に収録されてたアナウンサーのやつも、その顔テレビで晒したら人生終わらない ? ぐらいの感想しか...。
残念ながら私は夏原サイケさんとは合わないんだと思います。


ではまた !
浅葱 拝

革命のα / 鹿島こたる

[あらすじ]世はα全盛期。すべての富と権力はαの元に集中し、私利私欲のままにそれを貪る。媚びへつらうΩ・βの姿を見下ろして――…。そんな格差社会に一石を投じる考えの持ち主であるモーリスは、輝くブロンドに陶器のような白い肌。それはそれは美しく、賢く、気高い、名門セシェル家の御曹司α。側仕えの使用人β・シモンと良い仲だが、家督を継ぐ身であるが故、子を成すΩとの結婚は、避けて通れぬ道と定められていた。
性が、地位が、運命が、「愛」を翻弄する。絢爛耽美オメガバース。(電子書籍サイトの作品内容より)
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[感想]

絢爛耽美

フランス絶対王政時代に準えたような時代設定で、αの専制支配時代に乳兄弟で側支えのβのシモンと愛し合っている貴族のαモーリスが、封建的なしきたりに抵抗しつつ新たな時代を見据えて生きていく様子が耽美に描かれていて、絵柄と作品全体の雰囲気がベストマッチ。
ロココ調の豪華で煌びやかな衣装&美しい巻き毛や繊細な睫毛を余すことなくビシバシ描いていて、”絢爛耽美”の煽りに偽りなし❗️です。

「神は我々に理性を灯された」

オメガバースを題材にしていて、”運命の番”のα×Ωの組み合わせ以外の者たちが恋愛関係になる場合、いかに本能に流されず愛(感情)を貫けるかっていうところがメインテーマになるから、そういう意味ではこの「革命のα」も、β×αのカップリングで”本能に勝る愛”をテーマにしていて、オメガバースものとしての目新しさはないかな。
でもαとしての本能に抗う理由を問われたモーリスが「神は我々に理性を灯された」という言葉を用いたのが、この世界観にぴったりの台詞ですごく光ってる。
それとモーリスが、運命の番として登場したΩのクロードのことを蔑ろに退けるのではなくて、一人の対等な人間として友情を認め、体制に異議を唱える同志として新時代へと歩んで行くっていうのは、オリジナリティがあっていいと思った。

残念なのが、肝心のシモン×モーリスのメインパートが凡庸な展開で、なんだか薄い印象しか残らなかったこと。
モーリスの苛烈さとシモンの献身さの親和性がぴったりのカップルなだけに、どうして好きになったのかとか、どうやって愛を深めていったのかとか、もっと二人の感情の積み重ねを読みたかったよ......あとがきページに添えられてたショタのモーリスとシモンがめっちゃ突き刺さったので、二人の子供時代のエピソードとかね。読みたい...。

鹿島こたるさんは好きな漫画家さんですが、今作は少し物足りない感じがしました。
でも好きですw 

アンソロジー『調教覚醒BL』

に収録されていた「軍服のオーダー」という読切も入っています。
こちらは下官×上官で、軍隊もの・下克上・コスプレHというキーワード盛り盛りの短編ですw


では、また !
浅葱 拝